この事例の依頼主
年齢・性別 非公開
相談前の状況
相談者は、都内城北地区で自社ビルを保有するメーカーですが、業績好調のため、本社近くに土地を購入し、別館を建築するということになりました。そこで、建築業者にビル建築を発注し、工事が行われ、建物は完成したのですが、建物使用開始から、内階段の踊り場などにひび割れ、外壁にもひび割れ、屋上の排水のつまりなど、多数の不具合が生じるようになりました。建築業者に修理を要請したのですが、誠意ある対応をしてくれないので困って、相談に来られました。
解決への流れ
まず、懇意にしている一級建築士に、当該建物に生じている不具合を全て列挙してもらい、「瑕疵一覧表」を作成しました。その上で、相談者側で修繕をした場合にかかる費用を「損害額」として集計し、先方建築業者と損害額の支払につき交渉をしましたが、合意に達しませんでしたので、建築業者を被告として、東京地裁建築部(民事22部)に、建築瑕疵訴訟を提起しました。訴訟手続において、裁判所選定の専門委員(通常、一級建築士)が付き、両者の主張・立証を整理した後、裁判官・専門委員立ち合いで現地調査を行い、裁判所から和解案が提示され、最終的に和解が成立し、解決しました。
建築瑕疵訴訟については、東京地裁では専門部である民事第22部が訴訟・調停を担当する専門訴訟です。従い、建築瑕疵に基づく損害賠償を訴えていく建築の注文者側としては、まず存在する建築瑕疵を建築の専門家である一級建築士に整理してもらい、「瑕疵一覧表」にまとめることが重要です。「瑕疵一覧表」は、民事22部では必ず提出しなければならない書類であり、裁判もこの「瑕疵一覧表」に基づいて進行していくこととなります。「瑕疵一覧表」記載のポイントとしては、①瑕疵の現状、②瑕疵が生じたと思われる原因、③工事内容として本来あるべき姿、③修理すべき工事の内容、④修理工事にかかる費用を、個別の瑕疵ごとに記載していくこととなります。建築瑕疵で問題となるのは、建築業者の技量不足による完成度の低さですが、「工事内容の本来あるべき姿」でなかなか定量的・定性的に評価が難しく、技量の劣る業者を頼んだのが悪いということになりがちです。また、令和2年4月の民法改正までは、建築瑕疵訴訟の法律根拠は「瑕疵担保責任」であったので、損害賠償額も理屈上契約金額を上回るということはできなかったのですが、この点は、民法改正後は「契約不適合責任」と法律根拠がなったので、今後、裁判上の扱いが変わっていくのかもしれません。本事案においては、裁判所の専門委員が厳しい査定をして、相談者としては全面的に納得できなかったのですが、判決となった場合も専門委員の査定金額から大きく動くことはないであろうという判断から、最終的に裁判所和解案を受諾して、和解で解決ということなりました。