この事例の依頼主
50代 男性
東京下町の一角で地上げが計画実施されていた。相談者は、自己所有の土地建物を、あまり深く考えることなく、業者が提案した金額で売買契約書に署名捺印した。その後偶然に、自分よりも高い金額で売却した人がいることを知った。相談者は、小学校高学年の子供を転校させたくなかったので、新住居は通学圏内の物件に絞ったが、希望を叶えるには予想よりもはるかに高額な資金が必要であった。このままでは、子供を転校させなければならない。子供や奥さんから泣きつかれ、困り果ててご相談に見えられました。
地上げ業者から、不動産買取りの話があった際にご相談に来られれば、十分ご希望に添った交渉をすることが可能でした。でも、いったん契約書に署名捺印してしまった以上、契約内容を変更することは困難です。そう申し上げたところ、このままでは家に帰れないんですと、今にも泣き出しそうな顔をされてしまった。事務所のすぐご近所の案件でもあり、人の良さそうな相談者をそのままお帰しするわけにはいきませんでした。「あといくら必要ですか?」とお聞きしたところ、「400万円あれば何とかなります」とのお答えでした。そこで、ダメ元であることを前提にして、「いくら増額できるかは保証できないけど、やれるだけやってみましょう」と申し出ました。通常であれば、着手金をお預かりして交渉に入るのですが、その余裕はなさそうでしたので、こちらも腹をくくり、着手金・報酬金ともに、増額できた金員からいただくことにしました。さっそく業者に連絡を入れたところ、「先生ご冗談でしょう?もう契約済みですよ。」とけんもほろろの対応。そんなことわかってらい。そこを何とかと粘ったところ、業者が「まあ、お話だけはお聞きしましょうか」と言って、翌日事務所に来所された。相談者の事情を説明し、このままでは引越・明渡しが実現しないと30分ほどがんばったが、話が進まない。もうだめかとあきらめかけた矢先、業者が「ちょっと失礼します」と言って、携帯とタブレットを目の前で操作し始めた。暫時経過後、「先生、450万でいいですか?」と発言。「えっ、本当?」「それでお願いします」と言おうとしたら、「じゃ、先生の顔を立てて、550万にしましょう」とさらに金額がアップ。やったー! どうやら、すでに資材の手配や建築計画が切迫していたようで、ここで相談者の不動産が抜けてしまうと大きな損失が出るらしく、本社と相談の上一気に話を決めてしまおうとしたようです。結果、売買代金を550万円増額した新契約書の作成にこぎ着けました。新住居も、お子さんの通学圏内で希望に添った物件を確保できました。
不動産売買において、契約締結後の再交渉は初めての経験でした。ラッキーが重なったのかもしれませんが、想定を上回る売買代金の増額が実現でき、相談者からは大いに感謝されました。本件を通じて、地上げの事案では、ディベロッパー側が切実な事情を抱えていることが多いことを勉強でき、交渉のキモのようなものを掴むことができました。