この事例の依頼主
年齢・性別 非公開
相談前の状況
オービスで撮影された写真を根拠に、車の所有者がスピード違反で起訴されました。一審では捜査機関の顔貌鑑定を根拠に所有者が犯人であるとされたので、控訴審から一審の弁護人と共同で受任しました。
解決への流れ
まず、裁判所の記録を直接確認にいきました。一審の弁護人もコピーした記録を持っていましたが、コピーによる画質劣化の可能性もあることから、現物を確認すべきと思ったのです。しかし、実際の写真を見ても、これでおそらく同一人物とした一審の判決はおかしい、と感じました。併せて、顔貌鑑定という鑑定手法について研究しました。一般の書籍には簡単にしか触れられていなかったので、各種の学術論文検索サイトで網羅的に調査して、古書も集めるなどして研究しました。すると、この事件で行われた顔貌鑑定が不十分なものであることが良くわかりました。それを踏まえて裁判の記録を見ると、鑑定をした科捜研の職員もそこにあまり触れないように証言しているようでした。さらに、一審の裁判官が、顔貌鑑定の手法を理解できないまま、判決を下していることも明らかになったのです。弁護人二人で協議を重ね、控訴趣意書を作成しました。控訴趣意書では、正式な顔貌鑑定の手順を説明し、その手順に照らして本件の顔貌鑑定の信用性に大きな疑問があることを綿密に論証しました。控訴審では検察官も答弁書を提出してきましたが、他の地域の、顔貌鑑定が問題となった事件の刑事記録を取り寄せて提出するなどして、本件の顔貌鑑定がおかしいことを示しました。
控訴審で逆転無罪判決になりました。判決では、「原判決は・・・鑑定で行われているスーパーインポーズ法の手法等を正解しておらず、その評価に誤りがある上、もっぱら手法等の合理性を根拠として、証明力(識別力)の程度についての分析、検討及び評価をしないまま信用性を肯定している点で不合理である」として、弁護人の主張を全面的に認めるものになりました。新聞やテレビでも報道されています。スピード違反は、刑罰自体は軽微なものです。数万円の罰金なので~ということで、冤罪でも払ってしまう人が多いのではないかと思います。また、裁判になっても、一審の裁判官のようにあっさり有罪にする裁判官もいるでしょう。そのため、ずさんな処理が見過ごされてきたのではないでしょうか。依頼者が、「自分ではないのにおかしい」と頑張って争ったことが良かったです。弁護人としても、こういった事件に関われたことは大変嬉しく思います。判決文http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=89060