この事例の依頼主
20代 男性
Aは、大学2年生の4月に受けた健康診断で、「血圧が高く、心臓の状態を詳細に調べた方が良い」と指摘され、近所の内科医院で診察受けたところ、「心臓の弁に異常があるように思えるので設備の整った病院で検査を受けるよう」指示された。Aは,健康診断を受けるまでの間、学業の他、アルバイト勤務や旅行をする等、大学生生活を謳歌していた。その後、公立T病院内科に行き、担当内科医長Bの診察を受けたところ「超音波、心電図に異常があるので、8月の夏休みに詳細な検査を実施する」旨説明を受けた。「心臓カテーテル検査の必要性や危険性」に関する説明は全く無かった。8月1日、T病院に検査入院し、Bと研修医Cが心臓カテーテル検査を行なった。検査結果は、Bから「大動脈弁閉鎖不全」との診断。「不全は中程度」で「手術のことは今のところ考えていない。」「普通の生活を送るのに何ら支障ない」と説明。検査終了2ヵ月余経過の10月末頃から、Aは「体のだるさ」を感じ、横になる時間が増え、アルバイトも休み、顔色も悪く、食欲も無い状態になった。翌年1月中旬、Aは38度超の発熱が頻繁にあり、鎖骨付近に激痛があり、近所の整形外科医院にて診察を受けたところ「何かの細菌が原因ではないか。白血球が13,000もある」と言われた。その後も、蕁麻疹のような症状、筋肉痛、神経痛、微熱が続き、体調不良で、同年2月、T病院整形外科で背骨の検査を受けたが、担当医Dから「骨には異常がない」「神経痛かリューマチだから気長に通院しなさい」との意見だけ。Aの症状は一向に良くならず、研修医Cに会い、カテーテル検査後のおける症状を説明して、「心臓カテーテル検査に関連性があるのではないか」と尋ねたが答なく、「貴方は整形外科で受診されているのだから、そちらで検査を受けなさい」と突っぱねた。その後も、Aの症状は一向に良くならず、同年5月には、自宅ベッドからも起き上がることが出来なくなり、T病院整形外科に入院した。入院の際、前年のカテーテル検査の影響を尋ねたところ、Dが「Cとも連携をとり治療に当たる」と話された。当初、Dは「背骨には異常はない」との所見であったが、整形外科部長E医師が「背骨に隙間があり過ぎる」との診断で、MRI検査をしたところ、背骨の6、7、8番及び腰の軟骨が「化膿菌」により侵食されていた。Dは、「当面はいろいろな抗生物質を使用し菌を殺す方法をとります」と答えた。1ヶ月後のMRI検査では更に菌の侵食が進んでいた。入院当初にDが「Cと連絡を取り対応する」と話されていが、その対応もしていなかった。同年7月末に、Aは、T病院整形外科を退院したが、37度台の微熱が続き、寝たり起きたりの生活で、指定日に内科Cと整形外科Dの診察を漫然と受ける状態が続いた。Aの症状は悪くなる一方で、10月に入ると40度近くの熱が出続けた。同年10月24日(前年8月1日の心臓カテーテル検査日から1年2月余り経過)、Aの左脳動脈粒破裂が起き、昏睡状態となり、大学病院に運ばれ、緊急手術をして一命は取り止めたが、重大な後遺症が残り、Aは一生まともに働けない被害を受けた。Aの母親は、心臓カテーテル検査が原因であると確信し、息子Aの人生を駄目にされた主治医B、研修医C、及びT病院の責任回避の対応に憤り、相談に訪れた。
これは、裁判で進めるしか方法が無いであろうという判断から、公立病院Tの診療録やカテーテル検査記録等の証拠保全を真っ先にした。その後、証拠保全で得た資料を基に循環器内科専門の協力医に会って話を聞くとともに、鑑定意見書の作成を御願いした。 協力医の見解から、Aは、心臓カテーテル検査のときに、検査室内の常在菌がカテーテル検査というAの身体へ侵襲行為によって動脈内に入り、その菌が心臓に届き、心臓の大動脈弁(A弁)や僧帽弁にも細菌性の弁瘤が形成されて感染性心内膜炎が発症したと認められ、その後、心臓にある細菌の含まれる瘤が、動脈血に乗って左脳に流れて脳動脈瘤に発展し、その細菌性脳動脈瘤が破裂した結果、同人は右片麻痺による右手足機能障害、歩行障害、日常生活動作の障害、言語障害の後遺障害第2級に該当する後遺症(甲C2)の他、右半盲、遅発性痙攣の後遺症に苦しむ事態を引き起こされたことが分かった。そもそも、Aの心臓の状態は大動脈閉鎖不全であるところ、その診断は心臓カテーテル検査(身体への侵襲行為)をせずに検査出来る安全な方法があり、心臓カテーテル検査を行なうケースは、大動脈弁を取り替える手術をするときであるということが分かった。B医師とC研修医は、Cの認定内科医になるための研修対象(実験材料)として若い大学生のAを使ったことが分かった。そこで、Aが原告となり、T病院、B医師、C医師、整形外科のD医師を被告に損害賠償請求訴訟を提起した。第1審は、訴え提起して4年間掛かったが、T病院、C医師、D医師の責任を認め、Aの後遺逸失利益を含めた多額の損害賠償責任を認めた。責任を認めた理由は、感染性心内膜炎に対する治療としては早期診断を前提とした適切な抗生剤の投与しかないものであり、適切な抗生剤投与によって前記脳動脈瘤の形成と破裂を回避できることであったところ、医師C及び医師Dにおいて、Aの感染性心内膜炎を疑い、心エコー検査や血液培養検査を行なうべき義務を怠り、それがためにAの脳動脈瘤破裂を引き起こす結果を生じさせたということが中心であった。第2審も約4年掛かかり、裁判所は、第1審判決よりも若干増えた損害額を認めた。Aの家族は、Cの指導担当医Bや研修医Cの行政処分や刑事処分がなされず、その後も医師を続けていることにいて、理不尽ということは納得できないが、裁判所がT病院の責任を認めいてくれたことで納得し、矛を収めた。
T病院側は、実験目的の不必要な心臓カテーテル検査による細菌感染で、20歳の大学生の人生を狂わせる甚大な被害を与えているのに裁判で徹底的に争い、病院側に味方する医師を探してきて病院の意向に沿った鑑定意見書を複数通出す等抵抗した。医師が、どういう主観的意思で患者に接しているかについて、医師の内心出来事ゆえに、第三者からは究明し難い出来事である。患者の治療第1に考えてのことか、腕を磨く等のためだけなのかについて、専門分野のことゆえに、その見極めは非常に難しい面がある。心臓カテーテルは、検査後に予定されている外科的治療に対する詳細な情報(大動脈弁輪径、心拍出量、逆流量、大動脈弁圧勾差の有無)を入手したり、冠状動脈疾患の有無の確認等にあるが、これはあくまでも待機的人工弁置換術の施術を前提として行われるものであった。また、心臓カテーテル検査には危険性が伴うものであって、一般的に心臓カテーテルはその実施時においてカテーテルの挿入それ自体による1)血管内を損傷する危険、2)皮膚からの細菌感染の危険、3)実施時間の長化により感染の危険が増大するという危険があり、そのため、心臓カテーテル検査が有用であるかどうかを検討しなければならないだけではなく、患者に対して、心臓カテーテルから生じる危険性、心臓カテーテルの有効性や必要性、実施時間、具体的な実施方法を説明した上で、同意を取り付けならればならない義務があった。Aは大動脈閉鎖不全症であるから、冠状動脈は全然問題ないのに冠状動脈まで心臓カテーテル検査をしていることから、何処も異常ないこと分かっている環状動脈であるのに検査するのは、実験目的しかありえないこと、経験則的には明らかであった。全体として不必要なカテーテル検査を行い、Aに細菌感染の機会を与えてしまっていること明らかであった。被告側の抵抗が強く、裁判で証明出来るまで至れなかったが、本件では、経験則から見ると、研修医Cの勉強のために、B医師の不誠実さにより「心臓カテーテル検査を拒絶する機会がAにも与えられない」まま、全くAに不必要な心臓カテーテル検査が行なわれて、Aの人生がめちゃくちゃにされてしまった重大な結果があるのに、指導担当のB医師や研修したC医師が何の行政処分受けないで済まされている(免れている)ことにつき、理不尽さを今でも感じている。