この事例の依頼主
年齢・性別 非公開
工事業者は,地元では知られたハウスメーカーだそうです。基礎ができて土台を乗せようとしたら,基礎の設計を間違えていて土台が基礎の上に乗らないことが分かったようです。建物の構造を支える部分でした。気付いたところですぐに基礎をやり直せばキズは小さくて済んだのでしょうが,現場監督が,そのまま黙って建築を続けさせてしまいました。発注者は,土台が基礎に乗っていないことに気付きましたが,疑問に思っている間にも作業は進み,外壁も屋根まで葺いてしまいました。この時点で担当の営業マンに話し,工事は直ちに止まりました。ところが,ハウスメーカー側は,もうここまでできているから,基礎を二倍の厚みに手当して土台が乗るように補修し,工事を進めたいといいだしたのです。解体してやり直すよう求める発注者との話し合いが進まず,工事は中断してしまいました。ハウスメーカー側の弁護士からは,工事を進めて家を建ててしまえば瑕疵担保責任を負うだけで済むのだから,このまま建ててしまえばそれでいいのだという趣旨の内容証明が届いたため,激怒した発注者が相談に見えました。
建物未完成の間は,請負人は設計図書どおりに建物を完成する義務を負いますから,設計図書と異なる場合は設計図書どおりに作るように求めることができます。しかし,一応完成してしまうと,以後は担保責任を負うに過ぎません,瑕疵部分を補修して終わりです。瑕疵をどのように補修したらいいのかは,施主さんも専門家に相談し,ハウスメーカーの提案する方法で足りるという心証は持っていました。しかし,だからといって,瑕疵を発見したことを施主に隠して建物を建ててしまえばいいという態度を許すことができませんでした。施主さんは,設計図書どおりにやり直すよう主張し,結局,現場が半年以上放置されたのち,ハウスメーカーから調停が申し立てられました。既に建ててしまった部分を解体してやり直すとなると,1500万円程度費用がかかるというのです。しかし,瑕疵に気付いた段階で直ちに止めてやり直していれば200万円程度で済んだはずで,中断した状況を前提に補修して進めれば100万円もかからないだろうと予想されました。施主さんも,しろうととはいえ,工事が不自然だと気付いたのに抗議せず,そのまま進むのを黙ってみていたと指摘されてもやむを得ない面もありました。現地での調停が繰り返され,専門家が瑕疵の補修と数か月間放置していた部分の手当を指摘したうえ,指摘に従った手当てがきちんと行われたことを確認した上で,調停委員会から提案された解決金が支払われる内容の調停が成立しました。
施主は現場の作業を毎日監督しているわけではありませんから,工事に瑕疵があっても気付かないことの方が多いはずです。設計事務所に工事監理を委任することは,戸建て住宅の建築では珍しいことでしょう。本件は,偶然,施主さんが工事の瑕疵に気付いた珍しいケースでした。建物が基礎の上に乗っていないなら,基礎工事を行なった甲斐がありません。やり直すのは当然という気もします。しかし,以前,8階建ての商業ビルの柱脚工法の選択が適正だったかどうかの争いをしていたところ,仮に工法自体は適正だとしても,本件ビルの工事は適正に行われず,柱の取り付けが手抜き工事でプレートから浮いていたという理由で,監理業務を行った建築士事務所が賠償金を支払わざるを得なかった事件を経験したことがあります。本来メーカーが責任施工する領域なのですから監理業者が責任を負う理由はないと考えましたが,裁判所は納得しませんでした。建築士事務所さんも,柱脚が数十センチ浮いている写真を見せられて和解に応じる決断をしましたから,相当危険だったのでしょう。そういう工事がたくさん行われているのかも知れません。