この事例の依頼主
年齢・性別 非公開
相談前の状況
原告はマンション管理組合,被告は,マンションを販売したデベロッパー,建物建築を請け負った建設業者,工事監理業務を担当した設計会社の計4社で,当事務所は下請業者の代理人に就任しました。マンションの区分所有者と契約関係があるのはデベロッパーだけで(売買契約),その他の被告は契約がないため不法行為責任を追及する構成で,その原因になる事実は被告ごとに異なりました。法律関係が複雑で,被告によっては請求が成り立たない可能性もありましたが,受任した建設業者については,落ち度(過失)があったと認定される可能性が高いと予想されました。
解決への流れ
そこで,争点を損害論に定め,賠償額を圧縮することに目標を設定しました。補修工事の費用額を巡る争いもありましたが,本件では,半年近くかかる工事期間中,全世帯が借家を調達し転居して生活する費用と慰謝料を請求している点が,それはあまりに過大であるという主張を柱のひとつにしました。築数十年経過したマンションで耐震工事を施工する場合に,工事期間中居住者が一斉に転居して空き家にするという話は聞いたことがない,個々の居室に作業の騒音や振動で迷惑を掛けるのは,居室の周辺で工事を施工するせいぜい2〜3日に過ぎず,しかも昼だけである,そして,昼間,居住者の多くは仕事や学校におり在室していない,これらを考えると,工事期間中全居室が一斉に転居してマンション1棟全体を空き家にする必要はないと主張しました。訴訟の終盤で,行き過ぎと思えるほどの裁判所の介入によって原告の不充分な法律構成が補強されたのち,裁判所から和解が勧試され,全当事者が応じて和解成立しました。
本件は,訴訟が始まった当初はひとつの法律事務所が全被告の代理人に就いていました。ところが,被告間で利益の対立が生じる可能性が高くなったことから,当事務所が受任することになったものです。たしかに法律上の争点が多数ありましたから,法廷で争う価値もあったのでしょうが,工事に落ち度があることは分かっていたはずですから,裁判になる前に話し合いで決着するのが妥当だったのではないかと感じます。