この事例の依頼主
年齢・性別 非公開
相談前の状況
クライアントはインテリア家具を製造販売する会社。相手方企業は同業他社。相手方は、同社の商品(テレビ台)の形態が、不正競争防止法2条1項1号の周知商品表示性を有するところ、クライアントの製造販売する商品の形態がこれに類似するなどとして、クライアントに対し、当該商品の販売の差止め等を求める警告書を送付してきました。
解決への流れ
当職が依頼を受け検討したところ、相手方の主張において、そもそも相手方商品のどのような具体的な形態が商品等表示として周知であるのかも不明確であり、また、同商品に類似した形態の商品は多数の業者がすでにネット上でも各種製造販売しているところでもあり、相手方の商品がそれら商品と比べて特に顕著な形態的な特徴を有しているとも認められないものでした。さらには、相手方商品の形態が相手方の商品等表示として周知であるとの相手方の主張も十分説得的な論拠を欠いていると判断せざるを得ませんでした。そこで、当職はクライアントを代理して、上記の内容にて反論を展開したうえで相手方の要求は一切受け入れられない旨の回答書を作成し、相手方代理人に送付しました。それからしばらく何らの音沙汰もなかったのですが、回答書を送付してから実に1年半以上も経った後、唐突に相手方企業は裁判所に提訴をしてきました。相手方の請求は、当方の商品の製造販売の差止めと商品の廃棄、約5300万円もの損害賠償の支払を求めるものでした。裁判所で数回の期日を重ね、当方からは、前記回答書で述べたような反論を丁寧に主張立証することで無事請求棄却の判決を得ることができました。
判決の骨子は、次のようなものでした。・相手方商品は、特徴的な機能を有するものの、その形態が機能に基づくものであり、平成22年1月までには、既に他社のテレビ台が同様の機能に基づく形態上の特徴を有していたことを考えると、形態自体によって特別顕著性を取得していると考えるのは困難である。・相手方商品の販売実績、広告宣伝の状況、購買状況等を考えても、相手方商品の形態が「商品等表示性」を獲得するに足りるだけの周知性を獲得していると認めることはできない。・以上から、当方クライアントの商品と相手方商品の形態が類似しているか否かにかかわらず、相手方の請求には理由がない。ところで、不正競争防止法2条1項1号の周知商品等表示にいう「周知」とは、「需要者の間に広く認識されている」ことをいいます。必ずしも日本全国で認識されている必要はないですが、対象となる表示について他人の信用が蓄積されたと評価できる程度に知られていることを要します。実際の裁判では、宣伝広告の量・頻度、範囲や、商品・営業の取引の実績・規模などから、この「周知性」を立証します。需要者のアンケート結果が利用されることもあります。実際のところ、この立証はかなり難しく、私が過去に担当した案件でも、海外旅行のお土産のお菓子のパッケージデザインについて、仮処分では周知性が認められたにもかかわらず、本訴で逆の結論になってしまった事案があります。提訴前にこの周知性の立証が成功するかどうかを予測するのは、微妙な事案では相当に難しく、慎重な吟味を要します。また、「商品等表示」とは商品の出所や営業の主体を表す表示のことですが、具体的には、①人の業務に係る氏名、②商号、③商標、④標章、⑤商品の容器・包装等をいいます。この中に「商品形態」も含まれるのかという議論があります。「商品形態」というのは本来は商品としての機能・効用の発揮や美観の向上のために選択されるものであり、商品の出所を表示する目的を本来的に有しているものではないからです。ただ、これまでの裁判例によれば、①特定の商品の形態がきわめて特殊独自である場合、あるいは、②特定の商品の形態が独自の特徴を有し、かつ、この形態が長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は短期間であっても強力な宣伝を伴って使用されることにより、その形態自体が特定の者の商品であることを示す表示であると需要者の間で広く認識されるようになった場合には、「商品等表示」として保護の対象となり得るとされています。過去には、リーバイスのジーンズのバックポケット部分の弓形のステッチ模様や、ロレックスやカルティエの時計の形態が周知商品等表示に該当するとされた裁判例があります。また、短期間でも強力な宣伝等がなされたことにより周知性が認められた例としては、少し古いですが、バンダイのゲーム機である「たまごっち」の裁判例があります。これらの例からすれば、商品形態を周知商品等表示であると裁判所に認めてもらうためには、相当高いハードルがあると言わざるを得ないでしょう。本件でも、周知商品等表示性の認定について、裁判所はかなり厳格に判断したものといえます。この事案についても裁判所HPの「裁判例情報」にアップされています。大阪地方裁判所平成25年9月19日判決https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=83592http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/592/083592_hanrei.pdf