この事例の依頼主
年齢・性別 非公開
相談前の状況
依頼者は、妻の親族から借りた土地に、自宅兼店舗となる建物を建てて生計を営んでいました。ところが、貸主の子の代で土地が売却され、土地の買主から、建物収去土地明渡請求を受けました。元々の土地所有者からは「死ぬまで住んでいて構わない」と言われていましたが、親族間の信頼関係の強さがあだとなり、賃料の支払いが免除されていたこと、合意書等が作成されていなかったこと等から、善意の第三者に対抗できる根拠が見当たらない状況でした。
解決への流れ
元々が親族間の好意による借地であったため、確固たる権原の設定やその対抗要件を主張することは難しいと思われました。しかし、依頼者はすでに高齢であり、自宅を失えば生活自体が成り立たなくなる可能性が高い状況でした。土地を借りることになった経緯やその後の事情も考慮すれば、依頼者を立ち退かせることは、あまりに酷であると思われました。他方、訴訟に至った経緯等からすると、原告の請求は誠意や配慮を欠いており、不当な態様でした。そこで、いくつかの法律構成を検討したうえで、原告による請求が権利濫用に当たるという主張をメインに訴訟を行いました。可能な限り証拠を集め、諸事情を丁寧に主張した結果、権利濫用の主張が認められ、請求棄却の判決を勝ち取ることができました。その後、原告からは控訴を提起されましたが、控訴審においても一審の判決が維持され、そのまま確定しました。
親族間の「約束」は、約束をした本人が死亡したり認知症になると、第三者によって簡単に破られてしまうおそれがあります。本件もそのような事案であり、依頼者は非常に弱い立場にありました。しかし、様々な事情を丁寧に主張することで、権利濫用の主張が認められ、依頼者は終の棲家を失わずに済みました。一見して不利な状況であっても、簡単に諦めてはいけないことを実感した事案です。