この事例の依頼主
50代 女性
相談前の状況
本事案では、主治医はD病院及び転職先のE病院で、依頼主に対し、生体肝移植を一切念頭に置かずに治療を継続していました。その後、依頼主の肝硬変の悪化による容態急変後に、D病院に救急搬送され、同病院の副院長が主治医となりました。同副院長は、容態が安定すれば生体肝移植をするための準備をしており、提供予定者は依頼主の息子でした。しかし、依頼主は容態が安定する前に死亡しました。そこで、同副院長が遺族とともに弊所に相談に来られました。弊職は、解決事例①、②及び③と同様に、証拠保全の申立てをし、カルテ等を入手して、同副院長(協力医)と相談の上で提訴しました。
解決への流れ
この事案の判決は、生体肝移植の存在を前提に重篤な肝硬変について検査・診断・治療等に当たることが、病院に要求される医療水準であり、主治医の過失の基準としての医療水準でもあると認められるところ、依頼主や遺族に対して生体肝移植についての言及を一切しなかった主治医には説明義務違反または過失があると判断しました。その上で、同説明義務違反と依頼主の死亡との間に相当因果関係は認められないものの、死亡時点において依頼主が生存していたであろう相当程度の可能性があるとして、合計480万円の損害賠償請求を認めました。
この事案の判決は、類似先例の見当たらない新しいケースについて、いわゆる「相当程度の可能性の法理」で賠償義務を認めたものとして、下記のとおり、多数の著名公刊物に登載されております。判例時報 2116号97頁、医療判例解説 39号2頁(2012年8月号)、池田健次・医療判例解説 39号7頁(2012年8月号)、川﨑富夫・年報医事法学 27号143頁、医療訴訟判例データファイル(説明義務)。なお、「相当程度の可能性の法理」とは、最高裁平成12年9月22日判決が認めた判例法理で、死亡と医療過誤の因果関係が立証できない場合でも、適切な医療を受けていれば、死亡時点では生存していた相当程度の可能性があれば、賠償義務を認めるとの法理です。かかる法理による賠償額の相場は、約200~300万円と言われていますが、本事案ではそれを大幅に上回る480万円の賠償額が認められました。