この事例の依頼主
年齢・性別 非公開
お金は十分にあり、食べ物に困っているような状況でもない、そのような状況下で、過去に何度も万引き(窃盗)をしてしまい、何度も逮捕され、執行猶予判決を受けていた方が、その執行猶予期間中に、再び万引きで逮捕されたとのことで、ご家族がご相談に来られました。逮捕された方は、拒食症等の症状もあり、体調にも不安があるため、このまま長期間、留置場での生活をすると体力的にも心配という状況でした。
まずは早期の身柄解放が必須であると考えました。そこで、ご家族の方々に、身元引受け書や、家族で面倒を見るという宣誓書などを用意してもらい、それを持って、私から、裁判官に「本人が釈放されても家族が面倒を見る」ということなどを中心にアピールをしました。その結果、勾留請求は却下となり、早期釈放となって、まずは自宅に戻ってもらうことができました。これは、家族の方が、逮捕されて早々に相談に来ていただいたおかげで、裁判官が勾留決定(10日間留置場にいなさいという決定)をしてしまう前に、裁判官を説得できたことが大きいです。ただ、一旦釈放となっても事件は終わっていません。今回のケースは、執行猶予中に同じ罪を犯してしまった(執行猶予中の再犯)というケースであり、このまま裁判を受けても、実刑判決(刑務所行き)が出る可能性が高いケースです。今回のケースでは、「特にお金に困っていない」「刑務所行きになるということが分かっていても、盗りたいという思いを止めることができない」「拒食症の症状がある」というような事情がありましたので、単純に物欲しさによる窃盗ではないということが明白でした。加えて、過去に私が見てきた窃盗症を患っている方々との共通点も多々あったことから、この方も窃盗症(クレプトマニア)なのではないかと考えました。そうはいっても、医師ではない私が勝手に窃盗症(クレプトマニア)を疑ったところで仕方がありません。まずは専門医に診てもらう必要があります。しかし、窃盗症を専門にしている精神科医の数は、患者の数に比して極めて少なくで、ようやく医師を見つけたとしても、患者の予約がいっぱいで、なかなか診てもらえないというのが実情です。そのような中、なんとか専門医を紹介し、診てもらうところまでこぎ着けたところ、やはり窃盗症(クレプトマニア)という診断が出ました。そこからは、週に一度の「通院」・「自助グループミーティングへの参加」・「家族同伴以外では外出させないような仕組みづくり」などを徹底してもらうようにしました。その後に始まった刑事裁判では、そういった治療内容や、再発防止に向けた取り組みなどを報告書にまとめて提出し、加えて、ご家族にも裁判所に出てきてもらい、証人として裁判官の前で、徹底した監督を約束してもらうなど、できることは徹底的に行いました。そういった活動が奏功し、執行猶予中の再犯でありながら、「再度の執行猶予判決」を勝ち取ることができました。判決で、裁判官が「できることはやり尽くしている」と評価してくれたことが印象に残っています。この方は、判決後も治療行為や再犯防止策をを継続しており、判決から数年経過していますが、今も平穏に暮らしておられます。もっとも、窃盗症(クレプトマニア)は、完治が難しいとされ、とにかく継続した治療が重要と言われています。実刑を回避でいたからといって、気を抜くことなく、治療に励んでいただきたく思っています。
窃盗症(クレプトマニア)をめぐる刑事事件は、問題点がかなり多いというのが実情です。「裁判の時に、せっかくもらった診断書を裁判官に見てもらえないことがある」「検察や警察は『窃盗症』という病について、極めて限定的に捉えており、窃盗症を否定する医師の意見書を用意してくることすらある」という事情などは、いざ当事者となると、嫌というほど大きな壁となって立ちはだかります。