この事例の依頼主
80代以上 男性
依頼主は、会社のオーナー経営者であり、会社の株式を100%保有しているとのことであった。高齢になった為、自分の長男に会社を承継させたいと相談してきた。ところが、依頼主の5人の弟妹たちが、定款や、議事録では、合計で過半数以上の株式を保有していることとなっていた。聞くところによると、依頼主は、長兄で責任感が強く、会社設立当初より、弟妹たちの生活を援助する趣旨で、同人らに株主名義を与え、役員に就任させるばかりでなく、多額の配当金を支払っていた。依頼主は、長男に会社の株式を承継させる前提として、弟妹たちに対し、本来の株主である自分に株式名義を書き換えることを承認するよう求めたところ、弟妹たちは、自分たちは実質的株主であることを主張して名義の返還を拒否した。背景に、会社の株式の価値が、大きく上がっているという事情があった。
そこでまず、会社の真実の株主が依頼主であることを裏付ける為、50年近く前の資料まで遡り、実際に出資したのが誰であるか調査した。その結果、依頼主であることが確認できた。また、その後の株主総会の開催状況も確認したところ、配当の決定、会社の重要事項など、本来であれば、株主総会を開催して決議する事項など、全て依頼主が一人で決定しており、株主として振る舞っていたのは、依頼主のみであることも判明した。かかる事実を前提として、弟妹たちと、任意の交渉を開始したが、一名しか依頼主が株主であることについて承認しなかった。そこで、他の弟妹たちを相手取り、会社の株主が依頼主のみであることの確認を求め、訴訟提起をした。その結果、残りの弟妹たちも、会社の株主が会社設立当初より依頼主のみであることを認め、和解に応じた。なお、弟妹たちは、会社の取締役であった為、会社を辞めてもらい、退職金という形で和解金を支払った。会社が和解金を支払った為、依頼主個人からの持ち出しがなかった。また、その金額も、現在の会社の株価よりも大幅に低廉な金額となった。依頼主は、会社の名義株問題が解決し、安心して、長男に会社を承継させることができた。
会社設立時に、資金を拠出していないにも拘わらず、さまざまな理由で、名義上、株主となってもらっているケースがある。とりわけ、昔は、株主一人という形で会社を設立することができなかった為、名義上株主となってもらうということが多かった。ところが、時間の経過、代変わり等の理由で、名義株主であることが名義株主サイドで分からなくなる場合や、株価が上がったことで、何らかの利益を得ようとして、名義株主であることを否定して、名義株を返還することを拒否するケースが散見される。会社の承継に際しては、かかる名義株の問題を解決しておかないと、会社承継後、紛争も承継することとなる。なるべく早い段階での解決が望まれる。