この事例の依頼主
男性
相談前の状況
いわゆるタクシー料金を支払おうとせず,しかも,支払いを求める運転手に暴行を加えて怪我をさせた事例でした。被害者はもとより,被害者の勤務するタクシー会社の怒りは極めて大きく,当初は「絶対に示談には応じない」との厳しいお叱りを受けていました。なお,強盗致傷罪は「裁判員裁判の対象」となる事件であるため,起訴されてしまうと必ず裁判員裁判となり,弁護人も通常は「2名」以上が必要とされ,尚且つ,減刑されない限りは基本的には「実刑=刑務所行き」という事案でした(強盗致傷罪の刑の下限は「懲役6年」ですので,減刑処分が付されて半分の「懲役3年」にならない限りは執行猶予付きの判決は貰えない事案でした)。その結果,起訴されてしまえば,裁判もある程度時間がかかり,弁護費用も更にかかり,しかも実刑の危険性も大きく実刑になってしまえば職も失い極めて大きな損失を被ることが予想される事案でした。
解決への流れ
起訴前の「20日間(勾留期間)」が勝負でした。この短い時間の中で何とか被害者のおゆるしを頂き示談を成立させることを第一の目標に弁護活動を展開しました。そのためには近道はなく,被害者側に誠意を示すほかありません。そこで,弁護人として受任直後に被害者側のもとを訪れ直接陳謝し,誠意を尽くして示談のお願いをさせて頂くとともに,示談内容についても,検察官が最終的に不起訴処分を決断しやすいよう検討を重ねました。その結果,何とか起訴前勾留の満期前に被害者と示談が成立し,被疑者は一旦処分保留で身柄を解放してもらった上,その後間もなく不起訴処分を勝ち取ることが出来ました。
確かに被疑者に非があり言い訳も出来ない事案ではありましたが,被疑者も強く反省されていたため,弁護人の立場としては,今回に限っては社会内での更生の機会を与えて欲しい事案でした。ただ,そうはいっても,「被疑者側の要望だけを一方的に求めても」被害者の方にしてみれば「自業自得」の一言で示談など望むべくもありません。当たり前のことですが,被害者の方と示談を成立させるにあたっては,被疑者とも相談の上ではありますが,被害者の方が納得できるだけの材料(被害弁償額であったり,反省態度であったり)を的確にお示しすることが必要と再認識した事案でした。