この事例の依頼主
男性
事件は,ショッピングセンターのレジ金を盗もうとしたところ,店員に見つかって逃げようとした際に店員を突き飛ばしたとして強盗致傷で逮捕されたというものでした。被害者の方は脳挫傷で意識が戻らない状態でした。このほかにも,窃盗の余罪が数件ありました。事案として,裁判員裁判対象事件であり,前科はなかったものの起訴された場合には実刑判決(懲役5~7年程度)になる可能性が高いものでした。
被疑者段階では,被害者の意識が戻らなかったこともあってコンタクトを取ることができませんでした。接見の際,犯行状況についてのご本人の供述をよく聴取すると,被疑事実と少し違う部分が出てきました。そこで,被疑事実に合わせて調書上の表現を変えられてしまわないよう,黙秘権に加え訂正を求める権利についても何度も注意喚起しました。間をおかずに接見を重ねることで,調書上もご本人の言い分通りの調書を作成してもらう事ができました。結果,起訴段階で公訴事実が窃盗と傷害に落ちました。公判開始後も,被告人には謝罪の手紙を書かせ,親族には示談のための金策を準備してもらいましたが,被害者は連絡をとることを躊躇しておられました。犯行時の記憶がよほど強烈だったのでしょう。判決前の最終公判に際しては,示談に向けた準備状況を報告書の形式にし,被告人の反省文とともに提出しました。最終的に,被害者の方が最終公判を傍聴に来られるということで,被告人が退廷後弁護人のみで裁判所でお話しする機会を得ることができました。被害者の方は肉体的には順調に回復し,後遺症等も残らないだろうということだったのでホッとしましたが,精神的な恐怖が残っておりしばらくは働きに出られないかもしれないということをおっしゃっていました。被告人には,被害者の意向を伝えたうえで,改めて謝罪文を書き直し,示談の際の金額についても被害者の方の事情を踏まえて再度検討していただきました。結果的には,謝罪文と示談金を受け取ってもらうことができ,判決も執行猶予つきの判決を得ることができました。
本件は振り返ってみれば執行猶予はかなり厳しい事案であったと思います。第1のポイントは,起訴段階で窃盗と傷害に落ちたことにあると思います。逮捕直後の供述は大雑把なものでしたが被疑事実をそのまま認める内容の調書が作成されていました。ここであきらめずに丁寧に被疑者の言い分を聴取し,調書に正確に反省させることができたのが大きかったと思います。第2のポイントは,被害者が拒絶的態度をとった時の示談です。起訴前の早い段階,起訴後の被害者の意識が戻った段階,被害者への事情聴取が行われた段階など,被害者にしつこいと思われない程度の頻度で検察官を通じて粘り強く意向確認をしたことで,最終的に面会していただけることとなりました。これらの2つの要因が重なって,被害者の方には十分でないながらも一定の償いをし,被告人に社会内での更生の機会が与えられることができたのは大変良かったと思います。