この事例の依頼主
30代 男性
被告人が,未成年者を9年2カ月にわたり自宅に監禁した等として,未成年者略取,逮捕監禁致傷、窃盗に問われた事件(いわゆる新潟女性監禁事件)。第一審は懲役14年。中心争点は,逮捕監禁致傷の法定刑の上限は10年(当時)であるところ,9年2カ月も監禁しながら10年では刑が軽すぎる。そこで,検察官は軽微な窃盗をも起訴し,併合罪加重をして法定刑の上限を15年に引き上げ(併合罪加重の場合1.5倍となる),懲役15年を求刑,判決は懲役14年。しかし,窃盗というのは監禁女性のため下着(2464円)の万引きで軽微なもの(通常であれば起訴されないか軽い処罰が妥当)。これは逮捕監禁致傷罪の法定刑の長期を10年と定めた刑法の規定を処罰の必要性から恣意的に変更するもので,刑法の規定を潜脱するもので許されないのではないかというもの(法令適用の誤り)。
弁護士会から2人で担当可と言われていたが(国選弁護),裁判所より呼出があり,一人で担当してくれと言われ,本件が上記法律上の争点が中心であることから,負担はさほど多くないと思い受諾し,一人で担当。併合罪加重が,1.5倍までと量刑制限をしているのは被告人の利益のため。もし各罪の刑を独立して量刑し,それをプラスしたものを宣告刑とすると(併科主義)重くなりすぎるので制限。同趣旨からは,1.5倍に枠を拡張するといっても,各罪の量刑をプラスした刑を超えた量刑をするのは違法。本件逮捕監禁致傷の量刑は最大懲役10年,窃盗は,軽微であり,種々事情を考慮しても懲役1年が限度。従って,本件量刑は11年が最大限―14年は誤り(法令適用の誤り)。控訴審判決は,当方主張を全面的に支持し,懲役11年が限度,懲役14年の宣告は法律上許されないとして原判決を破棄した。
控訴趣意書は25頁を要したが,一人担当で別段問題はなかった。しかし,マスコミ注目事件ということでマスコミ対応が大変で,それを考えると2人担当とした方がよかったかもしれない。結果は当方主張通りで大満足。しかし,最高裁で控訴審が破棄されたのは意外であり,残念。被告人Sは刑期を終え出所したと聞いたが,その後死亡したとのことである。