この事例の依頼主
50代 男性
私はA国籍の女性Bと婚姻し、Bの連れ子であるCと養子縁組をし、家族3人、日本で暮らしていました。私は会社経営をしていたのですが、Cが小学校に上がるころから業績が悪化し始めました。私は、従業員の生活を守るため、まず私自身の給与を減らしたのですが、Bはそのことを知ると激怒し、私に暴力を振るったり、罵声を浴びせたりするようになりました。そのうちに、Bが、「殺してやる」等と口走るようになったため、私は身の危険を感じ、家を出ました。私は、これ以上Bと夫婦でいることはできないと思い、離婚調停を申し立てましたが、条件が折り合わず、不成立となりました。他方、離婚調停中に、Bが私に婚姻費用分担請求調停を申し立てたため、私は毎月Bに15万円ほどの婚姻費用を支払うことになりました。その後、Bは、Cを連れてA国に帰ってしまいましたが、私はずっと婚姻費用を払い続けました。しかし、Bと私との間には交流はなく、今後、BとCが日本に戻って来る可能性もないだろうと思われたこと、私も残りの人生、良い人がいれば再婚もしたい、人生をやり直したいと思うようになったことから、Bとの離婚を決意しました。しかし、Bが外国にいる状態で、どうすれば離婚できるのかわからず、弁護士に相談することにしました。
弁護士に相談したところ、配偶者が外国にいても、さらには行方不明で居場所がわからなかったとしても、日本で裁判によって離婚することは可能だとのことでしたので、早速依頼をしました。そうしたところ、訴訟書類の翻訳や、A国への送達等で時間と費用がかかりましたが、離婚判決をもらうことができました。弁護士からは、離婚が成立した以上、Bへの婚姻費用の支払いは必要ないと言われました。また、判決では、Cの親権者はBとされましたが、養育費の取り決めはありませんので、養育費の支払いも不要だし、離縁の手続も取れると言われました。しかし、Cは私の実の子ではないとはいえ、まだ幼いので、今すぐ離縁するつもりはなく、毎月いくらかはCのために払い続けていきたいと考えています。私としては、とにかくBとの離婚が無事成立したことに、ほっとしています。時間と費用はかかりましたが、弁護士に依頼して良かったです。
配偶者が海外にいる状態でも、日本で離婚をすることは可能です。配偶者の海外での住所がわからない場合でも、可能です。本件では、相談者の妻BはA国の実家に住んでいることがわかっていましたので、A国の実家宛てに、裁判文書を送る必要がありました。このような外国送達が問題になる事案の場合、日本人同士の、日本の裁判所における裁判とは異なり、若干手続が複雑になります。本件では、いくつかある外国送達の方法のうち、「中央当局送達」という方法が取られました。これは、提訴した裁判所から、最高裁判所、送達先国の中央当局を経た後、裁判文書が送達実施当局に転達され、送達実施当局が、送達先国国内における送達を実施するというやり方です。また、日本国内での裁判であれば、訴訟の進行に応じて、適宜書証を提出するということも可能ですが、本件では、手数を減らすため、訴状、訴状添付書類及び書証は、最初からそろえて提出する必要がありましたし、A国の公用語である英語に翻訳する必要もありました。さらに、A国への送達が7ヶ月ほどかかり、送達完了後、第1回期日が開かれ、そこで相談者のみが尋問を受け、判決期日が指定されました。判決は、予想通り、相談者とBの離婚を認めるものでしたが、さらにこれをまた英訳してA国のBに送達しなければなりませんでしたので、それにまた7ヶ月ほどかかりました。判決がBに送達され、控訴期間が経過して、ようやく確定しましたが、提訴から、これら一連の手続の終了まで、1年半くらいはかかったと記憶しています。しかも本件では、訴訟提起前に、念のため、協議離婚ができないか、直接Bに手紙を出す等の試みもしていましたので、そういった手続にかかった時間も合計すると、ご依頼から事件解決まで、トータルで2年以上かかったと記憶しています。このように、裁判の相手方が外国人で、外国送達が必要になる案件の場合、相当の時間と費用がかかることを覚悟する必要があります。再婚などが問題にならない限り、海外で音信不通になった配偶者と婚姻したままの状態がずっと続いていても、あまり気にしない方もいらっしゃるかも知れませんが、人生は何が起きるかわかりません。もし本件のようなケースで悩んでおられる方がいらっしゃいましたら、時間と費用がかかることを見越して、早め早めにご相談されることをお勧めします。ちなみに、本件では問題にならなかったため、余談になりますが、外国籍の配偶者の連れ子と養子縁組をしている方の場合、配偶者との離婚とともに、連れ子との離縁を考えることも多いと思います。外国送達が必要になる場合、離婚訴訟の手続と同時にすれば、別々にやるよりも負担が少ないと思いますので、あわせて検討されてみてはと思います。