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大学キャンパスに交番設置 「大学の自治」に悪影響はないか?
2013年05月01日 12時22分

京都の名門・同志社大学の烏丸キャンパスの一角に、京都府警上京署の交番が完成した。4月17日には落成式が開かれたが、大学の敷地内に交番が設置されるのは、全国で初めてという。

憲法で保障されている「学問の自由」との関係から、従来、警察が大学構内に立ち入ることは、大学の自治への干渉になるとして問題視されてきた。大学側は今回の交番設置を「地域貢献の一環」と説明するが、違和感を持つ一部の学生や卒業生らによる反対運動も生じている。

今回の大学構内への交番設置は、憲法との関係で問題はないのだろうか。猪野亨弁護士に聞いた。

●交番設置は「大学の自治」に反するか?

「今回の問題は、大学当局が警察に敷地を提供しているということですが、これは明らかに大学の自治に反する行為です。警察側から敷地の提供を求める行為自体も問題ですが、それを承諾する大学も問題です。敷地を形式的に分ければ済むというわけでもありません」

猪野弁護士はこのようにバッサリと切り捨てる。

そもそも、大学の自治は判例などにより、憲法23条で明記された「学問の自由」を制度的に保障するものとして位置づけられているが、「歴史的に、大学の自治は常に警察や政治権力との闘いでした」(猪野弁護士)という。

「公安警察や権力者にとって、個々の学者、研究者、さらには学生の動向は、掌握したい情報だからです」

学生運動が活発だった1952年には、「大学の自治」が大きなテーマとなる事件が起きた。東京大学のポポロ劇団の演劇で、会場の教室に入り込んでいた私服警官を学生らが発見・拘束し、警察手帳を奪ったのである(東大ポポロ事件)。

「東大ポポロ事件のように、大学当局すらも認めていない私服の刑事が入構するなどは論外ですが、大学の自治は当局のためにあるわけではなく、個々の研究者の学問の自由を保障するためにあるのですから、大学当局の承諾の有無の問題ではありません。

私服ではなく、制服の警察官が堂々と学内に入り込んでいるという状態が持つ意味を考えるのであれば、むしろ、あからさまな監視と情報収集が行われているということでもあり、大学の自治を侵害する違法行為です」

●学生や研究者は、大学と自治体を相手取って損害賠償を請求できるか?

一方、学生や研究者が、大学側や京都府を相手取って損害賠償(慰謝料)を請求できるかどうかについては、「現在の最高裁がその請求を認めることはないと思います」と猪野弁護士は述べる。

「1998年に中国の江沢民国家主席(当時)が来日し、早稲田大学で講演会が開かれた際に、大学当局が参加者の情報を提供する事件がありました。この事件では、個々の学生の情報が警視庁に渡されていたということで、最高裁は大学当局の責任を認めました。

しかし、今回の件では、学問の自由を具体的に侵害したという事情がないという理由で、認めないと思われます」

これまで、大学の自治を守るために、警察の立ち入りを当然のように拒否する大学もあった。しかし、大学をとりまく環境が劇的に変化している中、大学の自治よりも「大学による管理」が優先されている現状があるのかもしれない。

(弁護士ドットコムニュース)

京都の名門・同志社大学の烏丸キャンパスの一角に、京都府警上京署の交番が完成した。4月17日には落成式が開かれたが、大学の敷地内に交番が設置されるのは、全国で初めてという。

憲法で保障されている「学問の自由」との関係から、従来、警察が大学構内に立ち入ることは、大学の自治への干渉になるとして問題視されてきた。大学側は今回の交番設置を「地域貢献の一環」と説明するが、違和感を持つ一部の学生や卒業生らによる反対運動も生じている。

今回の大学構内への交番設置は、憲法との関係で問題はないのだろうか。猪野亨弁護士に聞いた。

●交番設置は「大学の自治」に反するか?

「今回の問題は、大学当局が警察に敷地を提供しているということですが、これは明らかに大学の自治に反する行為です。警察側から敷地の提供を求める行為自体も問題ですが、それを承諾する大学も問題です。敷地を形式的に分ければ済むというわけでもありません」

猪野弁護士はこのようにバッサリと切り捨てる。

そもそも、大学の自治は判例などにより、憲法23条で明記された「学問の自由」を制度的に保障するものとして位置づけられているが、「歴史的に、大学の自治は常に警察や政治権力との闘いでした」(猪野弁護士)という。

「公安警察や権力者にとって、個々の学者、研究者、さらには学生の動向は、掌握したい情報だからです」

学生運動が活発だった1952年には、「大学の自治」が大きなテーマとなる事件が起きた。東京大学のポポロ劇団の演劇で、会場の教室に入り込んでいた私服警官を学生らが発見・拘束し、警察手帳を奪ったのである(東大ポポロ事件)。

「東大ポポロ事件のように、大学当局すらも認めていない私服の刑事が入構するなどは論外ですが、大学の自治は当局のためにあるわけではなく、個々の研究者の学問の自由を保障するためにあるのですから、大学当局の承諾の有無の問題ではありません。

私服ではなく、制服の警察官が堂々と学内に入り込んでいるという状態が持つ意味を考えるのであれば、むしろ、あからさまな監視と情報収集が行われているということでもあり、大学の自治を侵害する違法行為です」

●学生や研究者は、大学と自治体を相手取って損害賠償を請求できるか?

一方、学生や研究者が、大学側や京都府を相手取って損害賠償(慰謝料)を請求できるかどうかについては、「現在の最高裁がその請求を認めることはないと思います」と猪野弁護士は述べる。

「1998年に中国の江沢民国家主席(当時)が来日し、早稲田大学で講演会が開かれた際に、大学当局が参加者の情報を提供する事件がありました。この事件では、個々の学生の情報が警視庁に渡されていたということで、最高裁は大学当局の責任を認めました。

しかし、今回の件では、学問の自由を具体的に侵害したという事情がないという理由で、認めないと思われます」

これまで、大学の自治を守るために、警察の立ち入りを当然のように拒否する大学もあった。しかし、大学をとりまく環境が劇的に変化している中、大学の自治よりも「大学による管理」が優先されている現状があるのかもしれない。

(弁護士ドットコムニュース)

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