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「出世払いでいいからプロ目指せ!」出してもらった学費、挫折したら返済不要?
2019年11月28日 09時09分

貧しい家庭から大金持ちへ。人生の「一発逆転」が起こるのがプロスポーツの世界です。しかし、そのスタートラインに立つためにもお金がかかります。実力はあってもプロの夢を諦め、現実路線を選ぶ人も珍しくありません。

そんなとき、「出世したら返してくれればいいから、野球の強豪校に進学しなさい」などと支援してくれる人がいたらどうでしょう。

もちろん、必ずしもプロ野球選手になれるとは限りません。夢破れてしまったとき、「貸したお金を返して欲しい」と請求されたら、「出世しなかったから、返さなくていいはずだ」と拒むことはできるでしょうか。池田誠弁護士に聞きました。

貧しい家庭から大金持ちへ。人生の「一発逆転」が起こるのがプロスポーツの世界です。しかし、そのスタートラインに立つためにもお金がかかります。実力はあってもプロの夢を諦め、現実路線を選ぶ人も珍しくありません。

そんなとき、「出世したら返してくれればいいから、野球の強豪校に進学しなさい」などと支援してくれる人がいたらどうでしょう。

もちろん、必ずしもプロ野球選手になれるとは限りません。夢破れてしまったとき、「貸したお金を返して欲しい」と請求されたら、「出世しなかったから、返さなくていいはずだ」と拒むことはできるでしょうか。池田誠弁護士に聞きました。

●「出世しなかったら返さなくていい」とは限らない

いわゆる「出世払い」については、主に3つの考え方があります。

(1)出世しなければ払わなくて良いという支払条件を定めたものであるとする考え方(停止条件説)

(2)出世したか、出世しないことが確定した時点で支払うことを定めたものであるとする考え方(不確定期限説)

(3)あくまで道徳上の義務として返済義務を課したに過ぎず、返済を請求する法的な権利を付与したものではないとする考え方(自然債務説)

いずれの考え方に立つべきかは、最終的には当事者の意思の解釈の問題であり、いずれかの意思を明確にしている場合はその意思にしたがいます。

いずれかの意思が明確でない場合でも、当事者の関係性、出世払いを約束した者の置かれている立場、ここで期待されている「出世」の内容など、さまざまな要素から総合して当事者の意思が合理的に推測され、いずれの法的性質を持つ契約であるかが判断されます。

●裁判例は、「(2)出世しないことが確定したら支払う」が通例

しかし、裁判例では、一般に、不確定期限を定めた契約であると考えられており(上記(2))、「出世」が実現するか、「出世」が実現しないことが明らかになった時点で返済期限が到来するという考え方に立っています。

この考え方からは、不確定な状態が継続されている限りにおいては、借主は、貸主に対して返済する義務を負わないことになります。

たとえば、「不確定な状態が継続されており、支払期限が到来していない」事例として、石材卸売事業で独立した被告の事業資金の一部として1000万円を貸与した事件(東京地裁平成8年10月31日判決)が挙げられます。

この事例では、「事業に成功したら払う」や「事業が軌道に乗ったときに払う」などとして貸し出されたものについて、不確定期限を定めたものであるとした上、いまだ借りた金1000万円を一括で返済できるほど十分な経済力があるとはいえず、事業が軌道に乗っているとは言えないと判断され、支払期限が到来していないとされました。

●野球での「出世」は狭き門、事情しだいでは支払わずにすむ可能性も

今回の事例でも、裁判例の傾向からすれば、不確定期限を定めたものととらえ、野球の世界での「出世」が確定し、または「出世」しないことが確定した時点で進学資金の返済期限が到来すると考えることになりそうです。

ただ、今回の事例では、「出世」の内容が狭き門であり、実現が容易ではありません。

そのような事情に加え、たとえば、資金提供者がかつて自身が抱いた夢を実現するために当該融資を行ったような事情が存在した場合には、「出世」が実現されなければ払わなくて良いとする停止条件付契約や,そもそも返還を求めない自然債務を発生させた契約であると考えることができる可能性が高まりそうです。

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