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NPOや社会起業家を支援 「ビジネス弁護士」が広げる「社会貢献」ネットワーク
2015年11月07日 09時44分

各分野の専門家が自分の持っている知識やスキルを生かして社会貢献する「プロボノ」と呼ばれる活動が、弁護士の間で徐々に広がっている。

そのグループの1つが、「BLP-Network(Business Lawyers Probono Network)」だ。BLPNに所属する弁護士の多くは、ふだん、企業間の契約や紛争、M&Aや知的財産関連分野など「ビジネス法務」をフィールドとして活動している弁護士たち。ビジネス法務で培った知識や経験を生かして、NPO法人やソーシャルベンチャーに対して、法的サービスの支援を行っている。

企業法務を専門とする弁護士たちが、なぜ、このような活動に取り組むのだろうか。「BLP-network」代表の渡辺伸行弁護士と副代表の大毅弁護士に聞いた。(取材・構成:‎藤井智紗子)

各分野の専門家が自分の持っている知識やスキルを生かして社会貢献する「プロボノ」と呼ばれる活動が、弁護士の間で徐々に広がっている。

そのグループの1つが、「BLP-Network(Business Lawyers Probono Network)」だ。BLPNに所属する弁護士の多くは、ふだん、企業間の契約や紛争、M&Aや知的財産関連分野など「ビジネス法務」をフィールドとして活動している弁護士たち。ビジネス法務で培った知識や経験を生かして、NPO法人やソーシャルベンチャーに対して、法的サービスの支援を行っている。

企業法務を専門とする弁護士たちが、なぜ、このような活動に取り組むのだろうか。「BLP-network」代表の渡辺伸行弁護士と副代表の大毅弁護士に聞いた。(取材・構成:‎藤井智紗子)

●企業法務の知識・スキルを活かして社会に貢献したい

――BLPNはどんな団体なんですか。

渡辺:1つの団体ではなく、ビジネス法務の知識や経験を活かしてNPOやソーシャルベンチャーを法的に支援したいという意識を持った弁護士たちの「集まり/グループ」です。将来的にそのような活動に関わりたいという学生や司法修習生も、サブメンバーとして加わっています。具体的な案件の依頼があった場合は、BLPNとして受任するのではなく、依頼者のニーズに対応できる弁護士メンバーが個別または共同で受任して、法的なアドバイスを行っています。メンバーそれぞれのもつ企業法務の知識やスキルを活かして、原則として無償で法的サービスを提供しています。

――具体的にはどんなことに取り組んでいるのでしょうか。

大:NPO法人の監事としてNPOの事業運営をチェックしたり、外部の弁護士として個別の依頼を受けて契約書を作成したり、ビジネスモデルに関する法的なリスクについてアドバイスをしたりしています。

渡辺:発展途上国での人身売買問題に取り組むNPO法人の支援など、国際的な事例もあります。BLPN全体としては、月1回ミーティングを行い、守秘義務に反しない範囲で、メンバー間で情報交換をしています。NPO法人の事務局担当者向けのセミナーや勉強会の開催をしたりもしています。

大:最近は、NPO担当者向けのアドバイスをまとめた本の共同執筆もしています。そのほか、ビジネスコンサルティング会社や公認会計士など、他の業種でプロボノをしている人や団体と連携することもあります。こうした連携を行うことで、法律面だけでなく、ビジネスそのものに対して、よりよいアドバイスができます。

●「やりたいことは明確」だけど「知識やリソースがない」人たちを支援

――支援を求める声は増えているのでしょうか。

渡辺:BLPNの活動が徐々に知られてきたかな、という印象です。我々が対応しているNPOやソーシャルベンチャーはどちらかというと、ゼロからお金と人を集めて立ち上げるというケースが多いのですが、そうした人たちは、知識やリソースのないまま目の前の事業に突き進んでしまいそうになることがあります。

社会の問題を解決したいという志ある社会起業家が「法的な問題」で悩んでいるとき、我々の支援によって彼らのやりたいことが実現し、それが社会貢献につながっていけばと思っています。

――今後は、どんな展望をもっているのでしょうか。

渡辺:BLPNの活動を多くの人に知ってもらい、支援のニーズが高まっていけばいいなと考えています。また、プロボノは、職種に関係なくできるものなので、いろいろなプロボノの活動をする人がいて、ニーズを伝え合い、お互いがよりスムーズに支援できるようになれば、よりよい社会貢献のインフラができるのではないでしょうか。

●「人権畑」「企業畑」の二元論というわけではない

――「プロボノ」自体も広がって行くのでしょうか。

渡辺:「プロボノ」という言葉自体は、日本ではまだあまりなじみがないかもしれませんが、海外ではプロボノの制度化・ルール化が進んでいます。たとえば、米国のニューヨーク州で弁護士資格を取得するためには、最低50時間のプロボノ活動を行うことが義務付けられているようです。

もともと日本でも、当番弁護や弁護士会の委員会活動など、弁護士として社会貢献する活動はありました。それらもプロボノのひとつの形といえるでしょう。

――先入観かもしれませんが、大企業相手にバリバリ働く企業法務の弁護士には、社会貢献活動を行うというイメージをあまり持っていませんでした・・・。

大:そういう見方をする方もいるかもしれませんが、実際には、企業法務の弁護士で当番弁護や弁護士会の会務をやる方も多くおられますし、プロボノをやる方も増えていると思いますよ。弁護士法1条には弁護士の使命として「社会正義の実現」が定められています。ただ、BLPNの活動についていえば、(弁護士会のルールなどと関係なく)メンバーがあくまで自律的に行っているということと、実務で培った「ビジネス法務」の知識や経験を活用しているということが特徴だと思います。

たまたま分野が違うのでアプローチの仕方も違いますが、企業法務だけ別ということはありません。目指していることは同じで、「日本をよくする、社会をよくする」ということです。弁護士について「人権畑」「企業畑」とも言われますが、二元論ではないと思います。

渡辺:企業と個人のどちらを依頼者とすることが多いか、どのような法分野の仕事をすることが多いかという意味では、弁護士によって「畑(フィールド)」は違うのかもしれません。それでも、法律というルールに則って仕事をして、同じように社会正義の実現を目指している、という意味では、根っこも目指すところも同じだと思います。

【取材協力弁護士】

渡辺 伸行(わたなべ・のぶゆき)弁護士

弁護士(51期)、ニューヨーク州弁護士。TMI総合法律事務所パートナー。

M&Aなど企業法務全般を取扱う。特定非営利活動法人TABLE FOR TWO International監事、公益財団法人日本ラグビーフットボール協会規律委員会委員、横浜国立大学大学院非常勤講師(M&A担当)など。

事務所名:TMI総合法律事務所

事務所URL:http://www.tmi.gr.jp/

大 毅(だい・つよし)弁護士

弁護士(53期)大 毅法律事務所代表。

知的財産案件など企業法務全般を取扱う。公益財団法人日本ヒューマン・ライツ・ウォッチ協会監事、一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブル監事他。

事務所名:大毅法律事務所

事務所URL:http://www.tsuyoshidai.jp/

(弁護士ドットコムニュース)

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