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アップルVS中小企業「裁判は米国で」の合意は無効――弁護士「大企業の契約に一石」
2016年02月22日 17時17分

米アップルに部品を供給していた日本の中小企業・島野製作所(東京都荒川区)が、アップルによる独占禁止法違反や特許権侵害があったとして損害賠償を求めている訴訟で、東京地裁が「紛争は米国の裁判所で解決するという両社の合意は無効」とする中間判決を出した。産経新聞によると、判決が言い渡されたのは2月15日。原告と被告は異議申し立てができず、審理は東京地裁で続けられる。

島野側は、アップルが部品技術を他社に流用させたことが特許権侵害にあたり、リベートの支払いを要求したことが独占禁止法に違反するとして、一部のアップル製品の販売差し止めや約100億円の損害賠償などを求め、2014年8月に東京地裁に提訴した。

一方、両社の契約書には「紛争はカリフォルニア州の裁判所で解決する」との合意があった。そのため、独占禁止法違反かどうかなど争いの核心を判断する前に、そもそも「日本の裁判所で審理できるか」という点が争われていた。いわゆる「裁判の管轄」の問題だ。

そもそも「管轄」というのは、裁判をする上でどんな意味をもつのか。なぜ今回は、契約書で「カリフォルニア州の裁判所で解決する」とされていたのに、その合意が無効とされたのか。岩永利彦弁護士に聞いた。

米アップルに部品を供給していた日本の中小企業・島野製作所(東京都荒川区)が、アップルによる独占禁止法違反や特許権侵害があったとして損害賠償を求めている訴訟で、東京地裁が「紛争は米国の裁判所で解決するという両社の合意は無効」とする中間判決を出した。産経新聞によると、判決が言い渡されたのは2月15日。原告と被告は異議申し立てができず、審理は東京地裁で続けられる。

島野側は、アップルが部品技術を他社に流用させたことが特許権侵害にあたり、リベートの支払いを要求したことが独占禁止法に違反するとして、一部のアップル製品の販売差し止めや約100億円の損害賠償などを求め、2014年8月に東京地裁に提訴した。

一方、両社の契約書には「紛争はカリフォルニア州の裁判所で解決する」との合意があった。そのため、独占禁止法違反かどうかなど争いの核心を判断する前に、そもそも「日本の裁判所で審理できるか」という点が争われていた。いわゆる「裁判の管轄」の問題だ。

そもそも「管轄」というのは、裁判をする上でどんな意味をもつのか。なぜ今回は、契約書で「カリフォルニア州の裁判所で解決する」とされていたのに、その合意が無効とされたのか。岩永利彦弁護士に聞いた。

●スポーツのホーム・アンド・アウェーと同じ

「裁判の管轄というのは、平たく言えば、どこの裁判所で裁判を行うかということです。

そして、この管轄というのは、契約(合意)によって、ただ一つの裁判所などに定めることが可能です。その場合、誰しも自分の近くの裁判所にしたいと思うのではないでしょうか。球技スポーツの『ホーム・アンド・アウェー』と同様です」

岩永弁護士はこのように述べる。管轄が「アウェー」の裁判所になると、具体的にはどのような不利益があるのだろうか。

「たとえば、日本人や日本企業がアメリカで訴訟をする場合、飛行機代が掛かりますし、アメリカでの弁護士を雇わないといけません。勝手もわかりませんし、弁護士費用の相場もわかりません。いくらお金がかかるかなど、非常に不安です。

逆に、日本人や日本企業が日本の裁判所で裁判ができれば、楽です。日本語で裁判でき、日本語で弁護士ともコミュニケーションできます。相場もわかります。

ですので、渉外(国際)契約では、この裁判管轄をどこにするかで様々な駆け引きが繰り広げられるのです」

●契約書にサインするか、取引しないか

そうした不利益があるのに、今回のように、アウェーの裁判所で裁判することに合意してしまうケースがあるのはなぜだろうか。

「巨大な多国籍企業を相手にした契約では、定まった雛形による契約書にサインするか、さもなくば取引しないかを、二者択一的に迫られます。

本来、契約はお互いの合意により成り立つものですから、契約書の修正も可能なはずです。ところが、巨大企業は圧倒的な物量に物を言わせ、自らに有利な契約を一方的に結ぶことができるのが普通なのです。本件の米国での管轄の合意も、そのような事例だと思います」

管轄の合意には、必ず従う必要があるのだろうか。

「常にそうなるとは限りません。契約書の定めに関わらず、日本企業が日本の裁判所に訴えるということはあり得ます。

これに対して、外国企業等は、契約書どおりの米国の管轄を主張するでしょう。そして、管轄の合意が有効なら、日本企業は米国で訴訟しなければならなくなります。

本来の争いのタネである特許権や独占禁止法の話に行く前に、裁判所の管轄が争いになり、まずはそれを確定しないといけなくなるのです」

●大企業の契約スキームに一石を投じた

今回のケースのように、管轄の合意が定められていたのに、それが無効だと判断されたのはなぜだろうか。

「まず、民事訴訟法がどんなことを規定しているのか確認しましょう。国際裁判の管轄の合意を定めた民訴法3条の7は次のような条文です。

(1)当事者は、合意により、いずれの国の裁判所に訴えを提起することができるかについて定めることができる。

(2)前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。

重要なのは、2項の『一定の法律関係に基づく訴えに関し』という部分です。ある程度、具体的な一定の法律関係でないといけないわけです。

そのため、『当事者間の一切の紛争に関するもの』といった抽象的で広すぎる裁判対象では認められません。他方、あまりに細かい個別的な裁判対象までも規定しないといけないわけではありません。

実際のところは、契約書をよく見てみないとわかりませんが、東京地裁が管轄合意を無効としたことから考えると、本件での管轄合意は、抽象的で広すぎた可能性が高いと思います」

今回は「中間判決」という形で、裁判がまだ途中の段階で判決を出した。これには、どんな意味があるのだろうか。

「中間判決は、民事訴訟法245条に規定されています。本件のような管轄の合意についての争いは、この条文に言う『中間の争い』と言えます。

両当事者も、管轄がはっきりしないと先に進めないでしょうから、裁判所も中間判決により明確な判断を示し、今後は本題の議論に入ることを宣言したのだと思います。

ともかく、取引相手の物量等に負けて、不承不承、相手方に有利なように締結してしまった『管轄の合意』について、今回、必ずしも素直に従う必要がないのだと分かりました。そのため、今回の中間判決は、日本の中小企業に非常に重大な意味と勇気をもたらすのと同時に、大企業の契約スキームに一石を投じることになりました」

岩永弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

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