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法テラスの元スタッフ弁護士が問題指摘「仕事をしない勤務弁護士が少なからずいる」
2015年07月26日 10時50分

国によって設立された法律相談の総合案内所の法テラス(日本司法支援センター)。法律問題で悩む人々への情報提供や、お金がない人の弁護士費用の立て替え、犯罪被害者支援など幅広い業務をおこなっている。そのうちの一つに、法テラスが雇用する「スタッフ弁護士」による法律相談や事件受任、国選弁護活動がある。 

その法テラスでかつて「スタッフ弁護士」として働いていた寺林智栄弁護士が、「法テラス」についての批判をブログなどで展開している。いったい何が起きているのか、寺林弁護士に聞いた。

国によって設立された法律相談の総合案内所の法テラス(日本司法支援センター)。法律問題で悩む人々への情報提供や、お金がない人の弁護士費用の立て替え、犯罪被害者支援など幅広い業務をおこなっている。そのうちの一つに、法テラスが雇用する「スタッフ弁護士」による法律相談や事件受任、国選弁護活動がある。 

その法テラスでかつて「スタッフ弁護士」として働いていた寺林智栄弁護士が、「法テラス」についての批判をブログなどで展開している。いったい何が起きているのか、寺林弁護士に聞いた。

「スタッフ弁護士」の役割とは?

私は2008年以降、法テラスの「スタッフ弁護士」として、愛知で33カ月、東京で3カ月働いていました。法テラスの事務所には「都市型」と「司法過疎型」があります。私がいたのは都市型です。

法テラスは国のお金で運営されていて、そこで働くスタッフ弁護士も給与制で働いているため、一般の法律事務所や弁護士と違って、「経済的に見合わない案件」でも引き受けることができるという特色があります。

私は最終的に2013年、任期途中で法テラスのスタッフ弁護士を辞めました。その大きな理由の一つは、何をやっているのか分からない、給与に安住して仕事もせずにのほほんとしているスタッフ弁護士がいることに疑問を抱いたことでした。

そもそも法テラスのスタッフ弁護士は、「引き受け手がいない案件がある」とか「地域に弁護士がいない」といったケースに対応するための存在です。特に、都市型の事務所で働くスタッフ弁護士は、他の弁護士がやりたがらない案件を引き受けることに意義があります。

ところが、私が務めていた当時の法テラス東京には、そうした案件を積極的に手がけない同僚が少なからずいたのです。

死刑囚から届いた手紙

象徴的な話をしましょう。私の働いていた法テラス東京に、とある死刑確定者から、真剣な法律相談の手紙が届いたことがありました。極めてまっとうで、真摯に困っていて、何とかならないだろうかという思いがにじみ出るお手紙で、きちんと対応する必要がある内容だと、私は感じました。

ところが、事務所で対応できるスタッフ弁護士を探したところ「法律相談に行ける」と手を挙げた人は、7人中、私ひとりだったのです。事務所にはもう1人、そうした案件に積極的なスタッフがいましたが、たまたま体調を崩していたのです。

死刑囚に面会しに行って法律相談に応じることは大変な手間がかかり、まちがいなく経済的に見合わない案件です。だからこそ、法テラスのスタッフ弁護士が対応すべき案件だと、私は考えています。

私のいた事務所では、当時、刑事施設に収容されている人からの相談案件を誰が担当するか決めるため書類を回していたのですが、その書類に「この案件には対応できません」という意味の×印がずらっと並んでいたのを見て、私はがっかりしてしまったのです。

「安定した就職先」として人気の法テラス

法テラスのスタッフ弁護士は、いま「安定した就職先」として人気だといいます。弁護士の就職難が叫ばれる中、安定収入には魅力もあるでしょう。しかしスタッフ弁護士の中には、給与に安住していると言われてもしかたがないような人も混じっています。

法テラスに持ち込まれる案件はハードなものが多いので、そんなに量をこなせるわけではありませんが、私がスタッフ弁護士として勤務していたころは、手持ち案件が常時最低でも25件ぐらいあって、そのうち刑事事件が8件ぐらい。一番多いときで約40件、刑事事件が9件でした。なお、刑事事件は事務局に任せられる仕事が少なく、その負担は、私の感覚としては一般的な民事事件の3倍はあります。

ところが、中には手持ち案件が5件、年間の受任件数が1ケタで、18時に帰るというスタッフ弁護士もいました。

そういったことが許容されていた背景の一つには、法テラス東京が、地域のさまざまな機関との連携、いわゆる「司法ソーシャルワーク」の方向性に力を入れていて、そうした方向に力を入れたい弁護士がスタッフとして採用されていたこともあったのかもしれません。

私もそうした事業の意義はあると思いますが、そこに偏るあまり、他の仕事をやらないというのは問題だと感じています。

(弁護士ドットコムニュース)

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