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「悪質トランス差別団体」とツイートした研究者、投稿削除まで「1日5000円」要求され「支払う義務ない」と提訴
2022年11月14日 18時31分

ある民間団体を「悪質トランス差別団体だ」とSNSに投稿したことで、その団体から投稿削除や謝罪を要求されたが、それらに応じる義務はないとして、日本の大学で特別研究員をつとめる台湾出身の男性が11月14日、義務の不存在を求めて、横浜地方裁判所に提訴した。

この男性はリュウ・レイキンさん。リュウさんによると、団体側はSNSでの投稿を削除するまで不法行為が継続しているとして、1日5000円を支払うことも求めてきているという。

提訴後に横浜市内で開かれた記者会見で、リュウさんは、団体が「誤った知識を拡散し、LGBTとりわけトランスジェンダーの当事者を攻撃している」と批判したうえで、「ジェンダー差別の問題に関して正しく理解してほしい」と訴えかけた。

ある民間団体を「悪質トランス差別団体だ」とSNSに投稿したことで、その団体から投稿削除や謝罪を要求されたが、それらに応じる義務はないとして、日本の大学で特別研究員をつとめる台湾出身の男性が11月14日、義務の不存在を求めて、横浜地方裁判所に提訴した。

この男性はリュウ・レイキンさん。リュウさんによると、団体側はSNSでの投稿を削除するまで不法行為が継続しているとして、1日5000円を支払うことも求めてきているという。

提訴後に横浜市内で開かれた記者会見で、リュウさんは、団体が「誤った知識を拡散し、LGBTとりわけトランスジェンダーの当事者を攻撃している」と批判したうえで、「ジェンダー差別の問題に関して正しく理解してほしい」と訴えかけた。

●リュウさん側「違法な名誉毀損はない」

今回訴訟に至ったトラブルの発端は、リュウさんが2022年9月に投稿した次のようなツイート内容だった。

〈悪質トランス差別団体「女性スペースを守る会」は今度安冨歩先生に提訴した。安冨先生を支持します。#LGBT〉

「女性スペースを守る会」のホームページによると、同団体は、「いわゆるLGBT新法などにより、女性トイレ等を女性自認者(トランスジェンダー女性)が使うことが公認されて良いかを問い、諸々の課題がある『性自認』について立ち止まって十分な国会審議を求める会」だとしている。

リュウさんは、かねてより同団体の発信内容はトランスジェンダーを攻撃し、差別を広げようとしていると考えていたところ、同団体が東京大の安冨歩教授に名誉を毀損されたとして提訴したことを受けて、上記ツイートをしたという。

訴状によると、ツイートから5日後の9月30日、同団体から、名誉を著しく毀損するもので、刑事・民事上違法な行為であることは明らかだとして、「ツイート削除」「謝罪文をツイッタートップに1カ月掲示」「削除するまで1日5000円の慰謝料」を書面で請求された。

リュウさん側は、団体側の主張は防犯を理由としてトランスジェンダー女性に公衆女性トイレの利用を認めるべきでないというものだとして、それらが差別であるとの意見を述べることには公共性・公益目的が認められると反論。

複数の識者が差別団体だと評価していることなどから、「悪質トランス差別団体だ」と論評することは独善的な見解ではなく、十分な根拠と合理性があるとして、違法な名誉毀損行為はないと主張している。

●「削除するまで1日5000円」を批判

大阪公立大学人権問題研究センターの特別研究員としてジェンダー文学を研究する立場であるリュウさんは、シスジェンダー(出生時に割り当てられた性別と性自認が一致している人)のゲイとして、LGBT当事者でもある。

「同じく性的マイノリティとして、同性愛者もさまざまな偏見や差別的な言説に日頃から接しています。個人のトラブルに矮小化されないためには、常に性的マイノリティの連帯を示す必要があると思います」

女性トイレ等をトランスジェンダー女性が使うことについて慎重論を唱える「女性スペースを守る会」に対しては、「すべての女性を外見で選別、審査、検閲するつもりなのか」と実際にどう区別して排除するつもりなのかと疑義を呈する。

リュウさんの代理人をつとめる神原元弁護士も、女性トイレをトランス女性に使わせないということになれば、アウティングの問題になりかねないと指摘する。

「周りから完全に女性と認識され、女性の友人関係に溶け込んで生活しているトランス女性の方が、トイレだけ男性の方を使わなければいけないとなると、そこで(トランス女性であることが)わかってしまう。アウティングの問題につながりかねず、重大な人権問題になりえます」

神原弁護士は、今回のトラブルを「言論の自由の問題」だと説明。リュウさんのツイートを削除するまで1日5000円という請求についても「(判決によるもの以外では)聞いたことがない」として、批判的言論を封じ込めようとしていると団体の対応を批判した。

●女性スペースを守る会の見解

団体代理人の滝本太郎弁護士は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「ツイート削除、謝罪広告、損害賠償の請求書」を出したことは事実だとしたうえで、「悪質トランス差別団体」との表現は違法な名誉毀損にあたると回答した。

女性スペースを守る会のスタンスとしては、「守る会は、トランス女性について、揶揄や仕事差別があってはならないことはもちろんとしつつ、『女性として遇せよ』すなわち男性器あるまま女性トイレ利用を公認したり、女湯や女性スポーツ選手権に参加できるとすることは適切でない、ましてそのまま女性への性別変更ができることはまずいと考えている」と説明。

請求の金額については、「多くの訴訟が150万円などとするところ、直ちに削除した場合にもそれでは多額なので、一日5000円とし10カ月程で150万円計算とした」といい、今後の対応は「会の皆と相談する」とした。

●女性スペースを守る会が反訴を提起

同団体は2023年1月17日、リュウさんのツイートは名誉毀損にあたるなどとして、慰謝料約54万円および同日からツイートが削除されるまで一日5000円のほか、ツイート削除やツイッター上での謝罪文の掲示などを求め、リュウさんに対して反訴を提起した。

(1月18日18時10分、女性スペースを守る会の反訴について追記しました)

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