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大津市の中学校で起きたいじめの加害者の実名をさらす行為は違法性があるのか
2012年07月25日 16時07分

滋賀県大津市の市立中学校に通っていた男子生徒がいじめによって自殺した問題で、いじめの加害者とされる生徒の実名がインターネット上にさらされている。

加害者とされる生徒の実名が特定されるきっかけになったのは7月6日にテレビで放送された報道番組で、亡くなった男子生徒の遺族が準備を進めていた損害賠償訴訟の書類が画面に映し出された際に、黒塗りされていた加害者とされる生徒の名前の部分が、うっすらとだが透けて見える状態になっていたことだ。

かねてより亡くなった生徒が受けていたいじめの悪質極まりない実態が報道されるにつけ、インターネットの掲示板サイトでは加害者生徒を特定しようとする動きが見られていたが、今回の報道番組によってついに特定されたとして、その生徒の名前がインターネット上で広く拡散されることになった。

しかし、いじめの加害者とされる生徒の実名をインターネット上にさらす行為は法的に問題がないのだろうか。もし、その動機が正義感によるものだとしても、心情的には理解できるが、法的に問題があれば実名をさらした者は何かしらのペナルティを受けてしまうことになりかねない。本橋一樹弁護士に見解を聞いた。

●名誉毀損罪と侮辱罪にはあたらない?

「インターネットは不特定多数人が接続可能なので、いじめの加害者の実名をさらした場合、名誉毀損罪に問われる可能性があります。但し、名誉毀損罪が成立するためには、具体的に人の評価を低下させるに足りる事実を告げる必要があるので、具体的な事実を告げず、『実名を書き込んだ』というだけでは、名誉毀損罪は成立しないでしょう。」

「なお、『いじめ』という抽象的単語と実名の書き込みだけの場合は、事実を摘示しないで公然と人を侮辱したものとして、侮辱罪が成立する可能性があります。もっとも、本件はこれだけ頻繁に世間に報道されておりますので、『いじめ』行為の具体的内容をいちいち書き込まなくても、それが大津市の中学校で実際に起きたであろういじめ行為を容易に推測・認識させ、その加害者を特定して実名をさらしていると判断されてしまうことがあるかもしれません。」

「こうなると、再び名誉棄損罪の成立の可能性が出てきます。しかしながら、今回の事件では、暴行・恐喝等の容疑で既に捜査が開始されているとのことであり、かかる公訴の提起されていない人(加害者が刑事未成年である14歳未満ではないことが前提)の犯罪行為に関する事実は、『公共の利害に関する事実』と見做されるので、インターネットへの書き込みが、もっぱら公益を図る目的に出たものと認められ、かつ、いじめの具体的事実を立証できれば、違法性が阻却され、罰せられないことになっています。」

「もっとも、インターネットへの実名の書き込みが、『公益を図る目的でなされたか』というと、裁判所はそのような認定を果してするかどうか、疑問もあります。なかなか難しいですよね。」

●損害賠償責任を負う可能性が

「次に、民事上の不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性もあります。名誉が一般不法行為の保護法益となることについては争いがなく、故意または過失により、他人の名誉を毀損した場合には、被害者は加害者に対して、損害賠償請求ができます。」

「この場合は、実名を書き込んだだけでも、前後の書き込み等から、実質的にいじめの加害者であることを指摘しているものと判断されれば、名誉が毀損されたとして、損害賠償請求をされる可能性があるでしょう。なお、財産的損害についての賠償請求も可能ですが、名誉毀損との間の相当因果関係の立証が困難であるため、精神的損害に対する賠償請求の方が認められやすいと言えます。」

●違法性はあるが、再調査の実現に繋がったと見る向きも

今回の事件については、インターネット上で加害者生徒や中学校側、あるいは教育委員会などに対する非難が高まったことが事件の再調査に繋がった側面もあると考えられ、もしこのような世論の高まりがなければ事件に対する追及もなかったのではという見方があるが、あくまで法的には加害者とされる生徒の実名をさらす行為には違法性があるということになる。

直接の当事者でない一般の人々がこのような違法性のリスクを伴う行為をしなければ真実が明らかにならないというのは言うまでもなくおかしなことであり、捜査関係者の対応には大きな疑問が残るが、とにかく今後は再調査や裁判を通じ、事件の全容が解明されることを願いたい。

(弁護士ドットコムニュース)

滋賀県大津市の市立中学校に通っていた男子生徒がいじめによって自殺した問題で、いじめの加害者とされる生徒の実名がインターネット上にさらされている。

加害者とされる生徒の実名が特定されるきっかけになったのは7月6日にテレビで放送された報道番組で、亡くなった男子生徒の遺族が準備を進めていた損害賠償訴訟の書類が画面に映し出された際に、黒塗りされていた加害者とされる生徒の名前の部分が、うっすらとだが透けて見える状態になっていたことだ。

かねてより亡くなった生徒が受けていたいじめの悪質極まりない実態が報道されるにつけ、インターネットの掲示板サイトでは加害者生徒を特定しようとする動きが見られていたが、今回の報道番組によってついに特定されたとして、その生徒の名前がインターネット上で広く拡散されることになった。

しかし、いじめの加害者とされる生徒の実名をインターネット上にさらす行為は法的に問題がないのだろうか。もし、その動機が正義感によるものだとしても、心情的には理解できるが、法的に問題があれば実名をさらした者は何かしらのペナルティを受けてしまうことになりかねない。本橋一樹弁護士に見解を聞いた。

●名誉毀損罪と侮辱罪にはあたらない?

「インターネットは不特定多数人が接続可能なので、いじめの加害者の実名をさらした場合、名誉毀損罪に問われる可能性があります。但し、名誉毀損罪が成立するためには、具体的に人の評価を低下させるに足りる事実を告げる必要があるので、具体的な事実を告げず、『実名を書き込んだ』というだけでは、名誉毀損罪は成立しないでしょう。」

「なお、『いじめ』という抽象的単語と実名の書き込みだけの場合は、事実を摘示しないで公然と人を侮辱したものとして、侮辱罪が成立する可能性があります。もっとも、本件はこれだけ頻繁に世間に報道されておりますので、『いじめ』行為の具体的内容をいちいち書き込まなくても、それが大津市の中学校で実際に起きたであろういじめ行為を容易に推測・認識させ、その加害者を特定して実名をさらしていると判断されてしまうことがあるかもしれません。」

「こうなると、再び名誉棄損罪の成立の可能性が出てきます。しかしながら、今回の事件では、暴行・恐喝等の容疑で既に捜査が開始されているとのことであり、かかる公訴の提起されていない人(加害者が刑事未成年である14歳未満ではないことが前提)の犯罪行為に関する事実は、『公共の利害に関する事実』と見做されるので、インターネットへの書き込みが、もっぱら公益を図る目的に出たものと認められ、かつ、いじめの具体的事実を立証できれば、違法性が阻却され、罰せられないことになっています。」

「もっとも、インターネットへの実名の書き込みが、『公益を図る目的でなされたか』というと、裁判所はそのような認定を果してするかどうか、疑問もあります。なかなか難しいですよね。」

●損害賠償責任を負う可能性が

「次に、民事上の不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性もあります。名誉が一般不法行為の保護法益となることについては争いがなく、故意または過失により、他人の名誉を毀損した場合には、被害者は加害者に対して、損害賠償請求ができます。」

「この場合は、実名を書き込んだだけでも、前後の書き込み等から、実質的にいじめの加害者であることを指摘しているものと判断されれば、名誉が毀損されたとして、損害賠償請求をされる可能性があるでしょう。なお、財産的損害についての賠償請求も可能ですが、名誉毀損との間の相当因果関係の立証が困難であるため、精神的損害に対する賠償請求の方が認められやすいと言えます。」

●違法性はあるが、再調査の実現に繋がったと見る向きも

今回の事件については、インターネット上で加害者生徒や中学校側、あるいは教育委員会などに対する非難が高まったことが事件の再調査に繋がった側面もあると考えられ、もしこのような世論の高まりがなければ事件に対する追及もなかったのではという見方があるが、あくまで法的には加害者とされる生徒の実名をさらす行為には違法性があるということになる。

直接の当事者でない一般の人々がこのような違法性のリスクを伴う行為をしなければ真実が明らかにならないというのは言うまでもなくおかしなことであり、捜査関係者の対応には大きな疑問が残るが、とにかく今後は再調査や裁判を通じ、事件の全容が解明されることを願いたい。

(弁護士ドットコムニュース)

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