望まない性行為を夫から強要されています。離婚できるのでしょうか。――。精神的に追い詰められた妻からの相談が弁護士ドットコムに寄せられています。
相談者によれば、結婚後に夫から「異常な性行為を要求されるようになった」そうです。妻の交際相手を探す夫の要望を相談者が断ると「使えん」と罵倒されるなどして、妻は「うつ病を患ってしまった」といいます。
このような状況で、夫との別居や離婚を望み、深刻な状況です。性癖の不一致を理由に離婚は認められるのでしょうか。家族の問題にくわしい長瀬佑志弁護士に聞きました。
●「夫婦間でも」望まぬ性行為の強要は性暴力や性的DVと捉えられる
——夫婦間でも相手が望まない性行為は性暴力や性的DV(ドメスティック・バイオレンス)と捉えられるでしょうか。
夫婦間であっても、相手の同意なく性行為を強要することは「不同意性交等罪」に該当し得ます。
2023年に改正された刑法には「婚姻関係の有無にかかわらず」と明記されており、暴行や脅迫がなくとも、精神的圧力などで相手が抵抗できない状態に乗じて性行為を行えば犯罪が成立します。
さらに、夫の一連の行為は、DV防止法が定めるDVにも該当することが考えられます。
同法が対象とする「暴力」は、殴る蹴るといった身体的暴力に限りません。異常な性行為の強要は「性的暴力」、人格を否定する暴言は「精神的暴力」にあたり、いずれも同法が定める「心身に有害な影響を及ぼす言動」に含まれます。
●夫婦間の「性癖の不一致」は、法的に離婚が認められる理由となる
——夫婦間の「性癖の不一致」は法的に離婚が認められる理由となるのでしょうか。
夫が離婚に応じない場合、裁判で離婚を成立させるには、民法第770条1項各号に定められた法定離婚事由が必要です。
本件のようなケースでは、同項5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するかどうか、すなわち夫婦関係が修復不可能なほどに破綻している状態にあたるかどうかが問題となります。
単なる「性格の不一致」という理由だけでは、離婚が認められにくいのが実情です。
しかし、今回のケースでは、対等な関係での「不一致」ではなく、一方の尊厳を著しく踏みにじる「性的虐待」に該当することも考えられます。過去の裁判例でも、相手の意思に反する異常な性的行為の強要は、離婚を認める理由とされています(福岡高判平成5年3月18日ほか)。
なお、妻がうつ病を患ったという事実は、夫の行為が原因で妻の心身を破壊するほどの深刻な加害行為であったことになり得ますので、診断書等の用意を検討いただくことがよいかと思います。