東京渋谷のカラオケ店で女性に性的暴行をし、現金を奪ったという強盗不同意性交罪の疑いで逮捕された元力士らが、不起訴処分となったと報じられています(産経新聞、8月12日)。
不起訴の理由は明らかになっていませんが、不起訴処分とはいったいどういうものなのでしょうか。理由を明らかにしないことには特別な理由があるのでしょうか。
●「不起訴処分」とは何か
刑事事件において、逮捕・勾留の後、最終的に刑事裁判にかけるかどうかを決定するのは検察官です。刑事裁判にする場合は「起訴」、しない場合は「不起訴」となり、この決定を「終局処分」と呼びます。
検察官が不起訴処分を下す理由は、主に以下の4つに分類されます。
1. 罪とならず
被疑者の死亡、公訴時効の完成など、訴訟の条件を欠いている場合のほか、そもそも被疑事実が犯罪の構成要件に該当しないと判断された場合です。
2. 嫌疑なし
被疑者が真犯人でないことが明らかになった、あるいは犯罪を立証する証拠がまったく存在しない場合です。
3. 嫌疑不十分
犯罪の疑いは残るものの、有罪判決を得るに足る十分な証拠がそろわなかった場合です。刑事裁判では「疑わしきは被告人の利益に」という原則があり、合理的な疑いを超える立証が必要とされます。
4. 起訴猶予
犯罪事実は認められるものの、被害者との示談成立、被疑者の反省の程度、初犯であること、被害の軽微さなど諸般の事情を考慮し、刑事処罰を求める必要がないと判断された場合です。
なお、これらの具体的な理由は通常公表されません。不起訴となったこと自体も通常は公表されず、告訴・告発のあった事件や、請求があった場合には、告訴人、告発人または請求人に処分結果などを通知しなければならないとされています(刑事訴訟法260条、261条)。
●強盗不同意性交罪での不起訴が意味すること
強盗不同意性交罪は、非常に重い罪(7年以上〜無期拘禁刑、刑法241条1項)です。通常、十分な証拠があれば起訴される性質の事案といえます。
不起訴処分となる理由としては、主に以下の可能性が考えられます。
証拠不十分の可能性 性犯罪は密室で行われることが多く、物的証拠の収集が困難な場合があります。被害者の供述と被疑者の供述が対立し、それを裏付ける客観的証拠が不足していた可能性があります。
示談成立による起訴猶予の可能性 被害者との間で示談が成立し、被害者が処罰を望まない意思を示した場合、検察が起訴猶予とすることがあります。ただし、強盗不同意性交罪のような重大犯罪では、示談があっても起訴されることもありえます。
●メディアは不起訴をどう報じる?
そもそも「不起訴処分」やその理由が、必ず報じられるわけではありません。
事件当事者からは「逮捕の時は実名で報じられたのに、不起訴について報じられず、名誉が回復されない」といった声があがることもあります。
元新聞記者は不起訴報道について、次のような背景を説明します。
「各地の地検では週に1回ほど、次席検事が報道機関の記者の取材を受ける機会を設けています。事件や裁判を担当する記者はその際、注目の事件や自社が逮捕時に報じた事件の被疑者について、勾留満期を迎えるタイミングに合わせて検察庁の処分結果を尋ねるようにしています。
私が新聞社にいた数年前の経験では、各社が共通して注目している事件については記者クラブの幹事社が取りまとめて地検に処分結果を質問し、その他の各記者が独自に追っている事件の処分については各自で地検に確認していました。
基本的に、検察庁の方から報道機関に起訴や不起訴の発表を積極的にすることはなく、メディア側が問い合わせることで教えるという流れになっていました。なので、たまに幹事社が取りまとめる中で抜けが生じるなどすることがあり、逮捕のニュースが出た後に不起訴になったのに報じられないこともあります」
●「不起訴の理由」が明かされない事情
なお、「不起訴の理由が何なのかも報道は伝えるべき」といった声があがることがあります。
しかし、これは難しいと考えます。不起訴の事情については、前述のように様々な事情があります。その中にはプライバシーを保護するべき事情も含まれるでしょう。
また、仮に「嫌疑なし」の場合だけは公表するなどの運用にした場合、そうでない場合には嫌疑があるということかと推知され、被疑者にとって大きな不利益になるおそれもあります。
今回の事件では不起訴理由は明らかではありませんが、逮捕当時は実名で報じられています。このようなケースで不起訴報道をどうするべきかは今後議論が必要かもしれません。 (弁護士ドットコムニュース編集部・弁護士/小倉匡洋)