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アマゾンのポイント還元サービスは「再販契約」違反だ――出版協の「抗議の理由」
2013年08月29日 11時07分

アマゾンが学生向けに行っている「10%のポイント還元サービス」は、再販制度の存続を脅かしている――。中小出版社からなる「日本出版者協議会(出版協)」がそのような主張を表明して、ポイント還元サービスの中止をアマゾンに求めている。

出版協が問題視しているのは、昨年8月にスタートした「Amazon Student プログラム」という学生向けのポイント還元サービス。登録すると、書籍購入額の10%がポイントとして還元されるという特典がある。登録の半年後から1900円の年会費がかかるものの、書籍代を節約したい学生にとっては魅力的なサービスだ。

だが本来、書籍は、出版社と書店が結んでいる「再販売価格維持契約(再販契約)」により、値引きができないことになっている。アマゾンのポイント還元サービスは、実質的には10%の「値引き」をするのと同じだから再販契約違反だ、というのが、出版協の主張だ。

「出版社が声をあげ、動かなければ、再販も街の書店も守れない!!」と、出版協は加盟社にアマゾンへの抗議を呼びかけているが、そもそも再販制度とはどういうものなのか。そして、出版協の主張には、どのような背景があるのか。著作権など出版をめぐる問題にくわしい井奈波朋子弁護士に聞いた。

●「再販売価格維持契約」は本来、独禁法で禁止されている

「再販売価格維持行為とは、商品の供給者が、取引先に対して、その商品を販売する価格を指示して守らせることですが、本来は、不公正な取引方法として禁止されています(独禁法2条9項4号、同法19条)。ところが、著作物の再販売価格維持行為については、例外的に、独禁法の適用がないとされているのです(同法23条4項)」

このように井奈波弁護士は説明する。つまり、「著作物」にかぎって「再販売価格維持契約」を結んでもよいとされているのだが、すべての著作物が対象となっているわけではない。

「対象となる『著作物』の範囲は、書籍・雑誌・新聞・レコード盤・音楽用テープ・音楽用CDの6品目に限定されています。これにより、出版社と書店の間では、取次業者を通して再販売価格維持契約が締結され、書店は書籍などの値引き販売ができなくなるのです」

●書店のポイントカードは「値引き」にあたるか?

このように「値引き販売」を禁じる効力が再販契約にあるといえるが、書店のなかには、ポイント還元サービスを行っている店もある。これは、値引きにあたるのだろうか。井奈波弁護士は次のように説明する。

「書店のポイントカードについて、公正取引委員会は『値引き』に該当するとしています。しかし、ごく低率のお楽しみ程度のポイント還元についてまで、『再販売価格維持契約に違反する』として出版社が禁止することは、かえって消費者の利益を阻害するおそれがあるという見解をとっています。

このような背景により、書店では一般に、1%程度のポイント還元サービスを実施しています。しかしアマゾンのサービスは、ポイント還元率が大幅に高いため、出版協は『再販売価格維持契約違反』との主張をしているのです」

「契約違反」という出版協の主張の背景には、このような事情があるのである。だが、消費者にとってはアマゾンのポイント還元サービスがありがたいのは間違いない。出版協の主張する再販制度維持による書店の存続と経済のどちらが優先するのか、という問題といえるかもしれない。

「書店からネット販売、電子書籍へと書籍の流通形態が変わろうとしている現在、従来の出版の再販制度が新たな流通形態にも適用されるのかが問題とされています」と、井奈波弁護士は指摘している。

(弁護士ドットコムニュース)

アマゾンが学生向けに行っている「10%のポイント還元サービス」は、再販制度の存続を脅かしている――。中小出版社からなる「日本出版者協議会(出版協)」がそのような主張を表明して、ポイント還元サービスの中止をアマゾンに求めている。

出版協が問題視しているのは、昨年8月にスタートした「Amazon Student プログラム」という学生向けのポイント還元サービス。登録すると、書籍購入額の10%がポイントとして還元されるという特典がある。登録の半年後から1900円の年会費がかかるものの、書籍代を節約したい学生にとっては魅力的なサービスだ。

だが本来、書籍は、出版社と書店が結んでいる「再販売価格維持契約(再販契約)」により、値引きができないことになっている。アマゾンのポイント還元サービスは、実質的には10%の「値引き」をするのと同じだから再販契約違反だ、というのが、出版協の主張だ。

「出版社が声をあげ、動かなければ、再販も街の書店も守れない!!」と、出版協は加盟社にアマゾンへの抗議を呼びかけているが、そもそも再販制度とはどういうものなのか。そして、出版協の主張には、どのような背景があるのか。著作権など出版をめぐる問題にくわしい井奈波朋子弁護士に聞いた。

●「再販売価格維持契約」は本来、独禁法で禁止されている

「再販売価格維持行為とは、商品の供給者が、取引先に対して、その商品を販売する価格を指示して守らせることですが、本来は、不公正な取引方法として禁止されています(独禁法2条9項4号、同法19条)。ところが、著作物の再販売価格維持行為については、例外的に、独禁法の適用がないとされているのです(同法23条4項)」

このように井奈波弁護士は説明する。つまり、「著作物」にかぎって「再販売価格維持契約」を結んでもよいとされているのだが、すべての著作物が対象となっているわけではない。

「対象となる『著作物』の範囲は、書籍・雑誌・新聞・レコード盤・音楽用テープ・音楽用CDの6品目に限定されています。これにより、出版社と書店の間では、取次業者を通して再販売価格維持契約が締結され、書店は書籍などの値引き販売ができなくなるのです」

●書店のポイントカードは「値引き」にあたるか?

このように「値引き販売」を禁じる効力が再販契約にあるといえるが、書店のなかには、ポイント還元サービスを行っている店もある。これは、値引きにあたるのだろうか。井奈波弁護士は次のように説明する。

「書店のポイントカードについて、公正取引委員会は『値引き』に該当するとしています。しかし、ごく低率のお楽しみ程度のポイント還元についてまで、『再販売価格維持契約に違反する』として出版社が禁止することは、かえって消費者の利益を阻害するおそれがあるという見解をとっています。

このような背景により、書店では一般に、1%程度のポイント還元サービスを実施しています。しかしアマゾンのサービスは、ポイント還元率が大幅に高いため、出版協は『再販売価格維持契約違反』との主張をしているのです」

「契約違反」という出版協の主張の背景には、このような事情があるのである。だが、消費者にとってはアマゾンのポイント還元サービスがありがたいのは間違いない。出版協の主張する再販制度維持による書店の存続と経済のどちらが優先するのか、という問題といえるかもしれない。

「書店からネット販売、電子書籍へと書籍の流通形態が変わろうとしている現在、従来の出版の再販制度が新たな流通形態にも適用されるのかが問題とされています」と、井奈波弁護士は指摘している。

(弁護士ドットコムニュース)

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