10987.jpg
検察事務官による「暴力団幹部」への情報漏えい 「防ぐ仕組み」はどうなっている?
2013年06月26日 17時35分

検察事務官が捜査情報を暴力団幹部に漏らして逮捕された――。そんなニュースが世間を騒がせている。

報道によると、逮捕されたのは静岡地検の女性検察事務官。自分の交際相手である同居人の男や、同居人を通じて知り合った暴力団幹部から要求され、職務上知った捜査情報をもらした国家公務員法(守秘義務)違反の疑いが持たれている。なお、この同居人と幹部の2人も同法(そそのかし)違反の疑いで逮捕されている。

検察事務官の仕事は、検察官の指揮を受けて犯罪捜査や令状請求などを行うことだ。極秘の捜査情報に触れる機会も多いため、暴力団幹部や、暴力団とつながりのある人物との交際は問題だと思える。交際を制限したり、情報漏えいを防止する仕組みはないのだろうか。田沢剛弁護士に聞いた。

●暴力団関係者と交流すること自体に問題がある

「国家公務員法は、『職員は、その官職の信用を傷つけ、または官職全体の不名誉となるような行為をしてはならない』(第99条)と定めています。検察事務官も国家公務員である以上、この規定に従わなければなりません。

国家公務員が暴力団関係者と密接に関わるのは『信用失墜行為』にあたります。報道のように、同棲相手を通じて暴力団幹部と知り合ったうえ、幹部と直接メールをやりとりするなど密接な関係を持っていたとすれば、『信用失墜行為』にあたるでしょう」

つまり、今回の直接の逮捕容疑は、捜査情報をもらした「守秘義務違反」だが、たとえ捜査情報をもらしていなくても、暴力団関係者とメールでやりとりするような関係になること自体に、問題があるということだろう。

――違反するとどうなる?

「この信用失墜行為それ自体には刑罰は科せられませんが、懲戒処分の対象(国家公務員法82条1項)となっています。一定の抑止力はあるといえます」

――公務員は、自由に他人と付き合うことはできない?

「もちろん、誰と付き合い、誰と恋愛をするかは『個人の自由』で、その権利は憲法上も尊重されています。しかし、その自由が無制限に許されるわけではありません。他の人権と同じく『公共の福祉』による制約を受けるのです」

――情報漏えいを食い止める仕組みは?

「そのための仕組み作りは簡単ではありません。たとえば、職場で使用するパソコンやメモリーを自宅に持ち帰ってはならないなど、各機関ごとに具体的な内規が存在するでしょう。

しかし『情報』そのものには形がありません。いったんそれが人間の脳に記憶されてしまえば、簡単に職場の外に持ち出すことができます。

このような情報漏えいに対しては、最終的には、今回のように刑罰をもって臨むほかありません。情報に接する個々の公務員の『倫理意識』に頼らざるをえないということになります」

公務員が情報を外部に漏らすかどうかは、究極的にはその人の「倫理」にかかっているということだ。現在の刑罰がどれだけの抑止力をもっているかは分からないが、公務員の倫理に訴えかけるには、法律で刑罰を定めておくことも重要だということだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

検察事務官が捜査情報を暴力団幹部に漏らして逮捕された――。そんなニュースが世間を騒がせている。

報道によると、逮捕されたのは静岡地検の女性検察事務官。自分の交際相手である同居人の男や、同居人を通じて知り合った暴力団幹部から要求され、職務上知った捜査情報をもらした国家公務員法(守秘義務)違反の疑いが持たれている。なお、この同居人と幹部の2人も同法(そそのかし)違反の疑いで逮捕されている。

検察事務官の仕事は、検察官の指揮を受けて犯罪捜査や令状請求などを行うことだ。極秘の捜査情報に触れる機会も多いため、暴力団幹部や、暴力団とつながりのある人物との交際は問題だと思える。交際を制限したり、情報漏えいを防止する仕組みはないのだろうか。田沢剛弁護士に聞いた。

●暴力団関係者と交流すること自体に問題がある

「国家公務員法は、『職員は、その官職の信用を傷つけ、または官職全体の不名誉となるような行為をしてはならない』(第99条)と定めています。検察事務官も国家公務員である以上、この規定に従わなければなりません。

国家公務員が暴力団関係者と密接に関わるのは『信用失墜行為』にあたります。報道のように、同棲相手を通じて暴力団幹部と知り合ったうえ、幹部と直接メールをやりとりするなど密接な関係を持っていたとすれば、『信用失墜行為』にあたるでしょう」

つまり、今回の直接の逮捕容疑は、捜査情報をもらした「守秘義務違反」だが、たとえ捜査情報をもらしていなくても、暴力団関係者とメールでやりとりするような関係になること自体に、問題があるということだろう。

――違反するとどうなる?

「この信用失墜行為それ自体には刑罰は科せられませんが、懲戒処分の対象(国家公務員法82条1項)となっています。一定の抑止力はあるといえます」

――公務員は、自由に他人と付き合うことはできない?

「もちろん、誰と付き合い、誰と恋愛をするかは『個人の自由』で、その権利は憲法上も尊重されています。しかし、その自由が無制限に許されるわけではありません。他の人権と同じく『公共の福祉』による制約を受けるのです」

――情報漏えいを食い止める仕組みは?

「そのための仕組み作りは簡単ではありません。たとえば、職場で使用するパソコンやメモリーを自宅に持ち帰ってはならないなど、各機関ごとに具体的な内規が存在するでしょう。

しかし『情報』そのものには形がありません。いったんそれが人間の脳に記憶されてしまえば、簡単に職場の外に持ち出すことができます。

このような情報漏えいに対しては、最終的には、今回のように刑罰をもって臨むほかありません。情報に接する個々の公務員の『倫理意識』に頼らざるをえないということになります」

公務員が情報を外部に漏らすかどうかは、究極的にはその人の「倫理」にかかっているということだ。現在の刑罰がどれだけの抑止力をもっているかは分からないが、公務員の倫理に訴えかけるには、法律で刑罰を定めておくことも重要だということだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る