屋外で使用するためのワイヤレススピーカーで大音量を流しながら、公共の場でパフォーマンスを行う——今年春頃、ドイツ人インフルエンサーが、日本の山手線や代々木公園、国会議事堂前駅などで「迷惑行為」ともとれるようなパフォーマンス動画を撮影、TikTokに投稿し、物議を醸しました。
5月初めには、日本の女性配信者が、電車内にワイヤレススピーカーを持ち込み、大音量の音楽を流す様子を撮影した動画がSNSに投稿されました。「公共の場でのマナー違反だ」と批判が広がっています。
投稿したのは登録者数8万人を超える(5月27日現在)女性インフルエンサーです。駅員から注意をされても音楽の再生をやめなかったようです。このインフルエンサーは騒動を受け、「本当に申し訳ございませんでした」と謝罪しています。
ネットでは「バズれば何でもアリなのか」と疑問の声も。一方で、何が問題なのか疑問に思う人もいたようです。こうした動画には、どんな法的問題があるのか検討してみます。
●業務妨害罪などが成立するおそれ
騒音によって乗客に迷惑をかけ、運行管理を乱したり駅員が対応に追われるおそれが生じている場合、偽計業務妨害罪(刑法233条、3年以下の懲役または50万円以下の罰金)が成立する可能性があります。
業務妨害罪に至るほどの違法性がないと判断される場合でも、軽犯罪法1条31号の「他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者」にあたる可能性があります<拘留(1日〜30日未満の身柄拘束)または科料(1000円〜1万円未満の罰金)>。
●その他の犯罪が成立する可能性は?
鉄道営業法35条では、「鉄道係員の許諾を受けずして車内、停車場その他鉄道地内において旅客または公衆に対し寄付を請い、物品の購買を求め、物品を配布しその他演説勧誘などの所為をなしたる者は科料に処す」と規定されています。
もっとも、「演説」の定義は明確でないため、これにあたるかどうかは微妙なところです。
次に、たとえば東京都では、「拡声器による暴騒音の規制に関する条例」5条は、「何人も、拡声機により暴騒音を生じさせてはならない。」とされています。
また、「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」130条では、「何人も、直接に屋外に騒音を発する状態で拡声機を使用してはならない。ただし、公共のために使用する場合、前条第三項に規定する規則で定める事項を遵守して行われる商業宣伝を目的として使用する場合その他規則で定める場合は、この限りでない。」としています。
ここでいう「拡声機」とは、明確な定義ではないものの、音声や音楽等を増幅拡大して、マイク・アンプ・スピーカーなどを用い、直接不特定多数の人に聞かせる設備のことをいうとされているようです。本件はこれにあたりそうですから、これらの条例に反することにはなります。
ただ、これらは直ちに罰則に結びつく条文ではなく(停止命令などが必要)、あまり実効性がないと思われます。
●やりすぎは禁物
再生回数を伸ばすために、インパクトのある動画を作成したいのは配信者であれば自然な気持ちではありますが、やりすぎは思わぬペナルティを受けることになります。
近年では特に行き過ぎた行為を動画配信することが問題視され、逮捕される事例もあります。他人に迷惑をかけない楽しい動画を配信していただきたいものです。