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刑務官から性被害受けた収容者と国が和解、解決金60万円…東京拘置所長が遺憾表明、再発防止策も
2025年11月17日 16時16分
#性犯罪 #拘置所 #受刑者 #刑務官

東京拘置所の刑務官から性被害を受けたとして、収容されていた男性が国に損害賠償を求めた裁判は11月17日、東京地裁で和解が成立した。

国が原告に解決金60万円を支払うほか、東京拘置所の全職員を対象に人権研修を実施することなどを約束する内容だ。

和解成立後、原告代理人が東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見を開いて明らかにした。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

東京拘置所の刑務官から性被害を受けたとして、収容されていた男性が国に損害賠償を求めた裁判は11月17日、東京地裁で和解が成立した。

国が原告に解決金60万円を支払うほか、東京拘置所の全職員を対象に人権研修を実施することなどを約束する内容だ。

和解成立後、原告代理人が東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見を開いて明らかにした。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

●食器口越しに陰部を触る

代理人によると、原告の男性(当時32歳)は東京拘置所に収容されていた2021年12月28日夜、薬を渡しに来た刑務官から陰部を見せるように求められた。

男性が断ることができず、ズボンを脱いで陰部を露出したところ、刑務官は、食事の受け渡しに使う差し込み口に近づくよう指示。そこから手を入れて、男性の陰部を握って数分間、前後に動かしたという。

男性は直後からノートに被害を書き留め、翌12月29日に別の職員に相談。さらに年が明けた2022年1月3日には「被害届を出そうと思っている」「弁護人に相談しようと思っている」と伝えたが、職員から「できれば被害届を出すのはやめてほしい」と言われた。

その後、男性が1月4日に弁護人宛ての手紙を発送して初めて、拘置所側は加害者の刑務官を担当から外す措置をとったという。

また拘置所による聞き取りを受ける中で、被害状況の再現を求められ、「ズボンを下ろせ」などと指示されて、下着姿の写真も撮られた。

こうした被害後の対応にも問題があるとして、男性は2023年8月、国に対して損害賠償を求めて提訴していた。

●東京拘置所長が「遺憾の意」、全職員に研修実施

この日の記者会見で代理人は、和解の内容として、国が解決金として60万円を原告に支払うことのほか、東京拘置所の所長に以下の対応を約束するものだという。

(1)刑務官による被収容者への性的凌辱(りょうじょく)行為について、東京拘置所長が遺憾の意を表する。

(2)拘置所の全職員を対象に外部有識者による人権研修を実施し、職員による被収容者への性犯罪の再発防止に努める。

(3)職員による性犯罪が発生した場合において、被害者への対応や上司への報告などを適切にできるような組織体制作りに努める。

(4)被収容者への性犯罪の捜査を行う職員を対象に、被害者の心情に配慮し、二次被害を防ぐための捜査方法などに関する研修を実施する。

研修実施にあたっては、「刑事施設では、刑務官と被収容者の関係が圧倒的な支配服従関係に陥ることがあることや、相手の立場への配慮を意識させることなどを習得させる内容」にするよう求めた。

画像タイトル 東京地裁が入る建物(弁護士ドットコムニュース撮影)

●刑事施設職員による性加害「どれだけ恐ろしいことか」

会見した代理人の髙遠あゆ子弁護士は「本人は、圧倒的な力関係があるので職員から指示されたことには抗えない恐怖だと話をしていた」と振り返った。

海渡雄一弁護士も「今後の再発防止や、事件が起きた時の調査・捜査のあり方についてまでも意義のある和解ができた。和解の内容は、研修の中身にまで踏み込んでいる。東京拘置所だけではなく、すべての刑事施設で実施するように運用してほしい。法務省も前向きに変わってきていると感じられた」と話した。

原告の男性によるコメントも読み上げられた。

「刑事施設やこういった性被害は、みなさんには関係のない世界の話かもしれません。私自身も、刑事施設に入ることはあってもまさか性被害者になるとは思ってもみなかったことです。

刑に服し『今度こそは』と、まっとうな道を探している日々の中、私たち被収容者からしたら、指導側の人間で身近に1人でもこういう性犯罪をするような人がいれば、すべての職員にそういう面があるのではないかという非常な恐怖を感じることとなります。

それがどれだけ恐ろしいことなのか、犯罪者の私がわかって理解してほしいというのはおこがましいかもしれません。一方で、今回の件を通じて、そうではない刑務官も何人か知ることができました。それは確かな希望です。

出所後、私はどうありたいか、人として間違いをしてしまったとき、相手が誰でも頭を下げること、それは自分自身だけではなく刑事施設をはじめとした周囲に求めたい。

今回の訴訟を通して、そういう大切なことを代理人を含め、多くの支援者の方々から学べました。拘禁刑が始まり、そういうことを学んでいくことが大切な時代なのかもしれません」

●性加害刑務官は有罪判決を受けて辞職

過去の報道や代理人によると、加害者の刑務官は特別公務員暴行陵虐の罪で起訴され、2022年11月に懲役1年6カ月、執行猶予4年の有罪判決を受けた。また、懲戒処分を経て辞職したという。

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