自分の月極駐車場に知らない車が無断駐車されている──。当事者になってみると、これほど腹立たしいことはありません。
X上では、こうした嘆きの投稿に"在野の識者"がさまざまな知見を寄せる中、「盗難車かもしれないと通報すれば警察が動く」という"ライフハック"が注目を集めました。
しかし、この方法は本当に有効なのでしょうか。車をめぐるトラブルにくわしい松本洋明弁護士に聞きました。
●「盗難車かもしれない」と通報する効果と限界
──自分が契約している駐車場に他人の車が停まっていた場合、「放置車両がある。盗難車かもしれない」と通報するとどうなりますか。
月極駐車場に見知らぬ車が停まっていたら、大変腹立たしいものです。
このときに「盗難車かもしれない」と通報することは、一定の効果をもたらす可能性がありますが、注意点もいくつかあります。
まず、警察には「民事不介入の原則」というものがあります。
これは、トラブルの当事者間の権利関係について、どちらが正しいかを判断して、その権利を実現するということを警察がしてはいけない、という原則です。
いずれの言い分が正しく、誰が権利を有するかは、裁判所で判断すべきことであり、その権利の強制的な実現も、裁判所の手続きにより実現すべきものだからです。
基本的に、無断駐車は土地の権利者(契約者)と無断駐車した人の間の民事問題とみなされるため、単に「無断駐車されています」と通報しても、警察が積極的に介入することは難しいと考えられます。
ところが「盗難車かもしれない」という情報が付くと、話が変わってくる可能性があります。
盗難は刑事事件にあたるため、警察は犯罪捜査の一環として対応する義務が生じます。
具体的には、車両のナンバーから所有者を照会して、盗難届が出ているかを確認するなどの初動捜査が期待できます。
その過程で、警察が車両の所有者に連絡を取り、結果として所有者が車を移動させるという展開につながる可能性はあります。
この点で、「盗難車かもしれない」という通報は、警察が動くための「きっかけ」になり得るといえるでしょう。
●「虚偽通報」とみなされれば業務妨害罪に問われることも
──それなら、この方法で車を動かしてもらえるということでしょうか。
必ずしもそうとは言えません。
警察の目的は、あくまで「事件性の有無を確認すること」であり、所有者が見つかっても、盗難車でない場合、警察が強制的に車をレッカー移動するなどの措置を取ることはできません。
また、冒頭で「注意すべき点」があると申し上げましたが、「盗難車かもしれない」との通報には法的リスクもあります。
明らかに盗難車ではないと認識しながら通報した場合、偽計業務妨害罪(刑法233条)や軽犯罪法違反(虚偽申告罪)に問われる可能性があります。
たとえば、以前から同じ車が繰り返し無断駐車していて、運転者も近隣住民だとわかっているような場合です。
こうしたケースで「盗難車かもしれない」と通報するのは、警察の業務を意図的に妨害したとみなされかねません。
もちろん、純粋に「放置車両を見て不審に思った」という相談趣旨であれば、ただちに問題となる可能性は低いと考えられますが、"事態を動かす方便"として安易に使うのは避けるべきです。
●「自力救済」はNG、法的手続きで解決を
──無断駐車に対して、ほかにもやってはいけない行動はありますか。
たとえ相手に非があったとしても、自力で強制的に車をどかすなどの「自力救済」は法律で固く禁じられています。
無断駐車に腹を立てて、実力行使をすると、逆にこちらが不法行為や犯罪の責任を問われるおそれがあります。
具体的に避けるべき行動には、次のようなものがあります。
勝手にレッカー移動する: 他人の財産(車)を許可なく移動させる行為で、器物損壊罪に問われたり、損害賠償を請求されたりするリスクがあります。
タイヤロックや障害物を置く: 車の効用を損なう行為として、同じく器物損壊罪にあたる可能性があります。
無断駐車を見つけた場合、まずは冷静に状況を記録することが重要です。車両のナンバー、車種、色、駐車日時などを記録し、写真に残しておきましょう。
車内に子どもが閉じ込められているなど、緊急性の高い事件でなければ、110番ではなく警察相談専用電話「#9110」に連絡し、状況を説明するのが最も穏当な方法と考えられます。
それでも、長期間放置される、あるいは繰り返されるような悪質なケースでは、最終的に民事訴訟による損害賠償請求や撤去命令も視野に入れる必要があります。その際は、弁護士などの専門家に相談するのが確実です。