1152.jpg
コインチェックが抱える裁判、親会社マネックスにとっては地雷? 法的リスクを考える
2018年04月10日 09時34分

巨額の仮想通貨「NEM」が流出した仮想通貨交換所コインチェックは4月6日、インターネット証券大手マネックスグループの完全子会社になると発表した。

コインチェックの新社長には、マネックスグループ取締役兼常務執行役の勝屋敏彦氏が就任する予定。現コインチェック社長の和田晃一良氏と同取締役COOの大塚雄介氏はともに経営責任をとって退任し、執行役員となる。

コインチェックでは1月に約580億円分のNEMが不正流出し、投資家の動揺が広がった。NEMを保有する約26万人全員に対し、あわせて約460億円を日本円で返金する方針を示したが、投資家の不信感は高まり、複数の損害賠償を求める訴えが東京地裁に提起されている。

今回、マネックスグループ入りしたことでコインチェックの旧経営陣らを相手取った裁判はどのような影響を受けるのか。また、マネックス側が新たに負う訴訟上のリスクはどのようなものが考えられるか。仮想通貨に詳しい勝部泰之弁護士に聞いた。

巨額の仮想通貨「NEM」が流出した仮想通貨交換所コインチェックは4月6日、インターネット証券大手マネックスグループの完全子会社になると発表した。

コインチェックの新社長には、マネックスグループ取締役兼常務執行役の勝屋敏彦氏が就任する予定。現コインチェック社長の和田晃一良氏と同取締役COOの大塚雄介氏はともに経営責任をとって退任し、執行役員となる。

コインチェックでは1月に約580億円分のNEMが不正流出し、投資家の動揺が広がった。NEMを保有する約26万人全員に対し、あわせて約460億円を日本円で返金する方針を示したが、投資家の不信感は高まり、複数の損害賠償を求める訴えが東京地裁に提起されている。

今回、マネックスグループ入りしたことでコインチェックの旧経営陣らを相手取った裁判はどのような影響を受けるのか。また、マネックス側が新たに負う訴訟上のリスクはどのようなものが考えられるか。仮想通貨に詳しい勝部泰之弁護士に聞いた。

●コインチェックの過失、裁判で明らかに

ーーまずコインチェックの巨額流出問題についてどうみていますか

「本買収案件の前に、コインチェックは取引の再開やNEMの補償を既に実施しており、補償資力の問題や、仮想通貨の分別管理状況に関する懸念はひとまず払拭されていると言えます。そうすると、残された賠償リスクは、NEMの補償レートの問題と、システム停止時における取引機会の損失の問題に集約されることになります」

ーー具体的に教えてください

「まず、補償レートの点ですが、判例は損害=差額であると捉えています(差額説)。NEMの事例にあてはめると、流出がなかった(NEMを保有している)状態と、実際の金銭賠償との差額が損害ということになりますが、補償実行時の実際のレートよりも良いレートを支払っている本件にあてはめると、損害はないという結論になります。

仮にそれ以上のレートでの賠償を求めるのであれば、そのレートでNEMを売却して利益を得ていたことが確実であるなどの特別事情の立証が必要になってくると思います。また、どのタイミングで履行不能となったのかの判断も影響するでしょう」

ーー機会損失についてはいかがでしょうか

「これは、ビットコイン等他の仮想通貨の取引停止期間中に、『損切りができなかった』『儲け損ねた』という問題です(なお、仮想通貨の下落自体による損害を交換所や経営者に求めていく場合には、流出させた行為と下落による損害の因果関係の立証が求められます)

コインチェックに『秘密鍵』(パスワードのようなもの)の保管についての落ち度があったことは明らかですし、システム停止から復旧までの内部管理態勢や代替出金手段の整備が不十分であり、その結果、長期の取引停止を招いたという点に管理上の落ち度があったという側面は否めません」

ーー「ホットウォレット」での管理も問題視されました

「日本公認会計士協会の定める分別管理に関する実務指針においては、常にネットワークに接続し管理されている『ホットウォレット管理』自体が禁止されていたわけではないですし、何をもって仮想通貨交換所の過失と捉えるのか、裁判の中で争われていくことになるでしょう。

加えて、機会損失のような二次的な損害(拡大損害)の請求については、特別事情の存在と予見可能性が民法上要求されますし、利用規約に免責規定も存在しますから、こういった点も論点となるでしょう」

●マネックス傘下で事業立て直し

ーー今回のマネックスによる買収はどうみていますか

「本買収は発行済株式の買い取りですから、その目的は流出騒動の補償資金獲得ではなく、あくまでも事業自体の立て直しであると思います。買収が訴訟進行に与える影響は軽微で(むしろNEMの補償実行と取引再開の影響の方が大きかったでしょう)、従前通り事実関係と法律論の争いになるものと思います」

ーーマネックス側が負うリスクはどうみていますか

「今後コインチェックはマネックスの連結対象子会社となりますが、コインチェックは既存の商号等を使い、あくまでも別会社として営業をしていくと聞いています。合併や事業譲渡ではないのですから、仮に訴訟においてコインチェックが多額の賠償義務を負うことになったとしても、それをマネックスに請求できるわけではなく、その意味でリスクは限定的であるといえます。

もちろん、今後コインチェックが業登録を断念したり、多額の賠償負担によって破綻することにより投資した36億円が無駄になってしまう、というリスクは残ることになります」

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る