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罰金50万円の電通に「業務上過失致死だろ」の声 過労死で刑事責任は問えない?
2017年10月12日 09時51分

違法残業問題で労働基準法違反に問われた「電通」。東京簡裁は10月6日の判決で、求刑通り50万円の罰金を命じた。

ポイントは、今回の裁判は「過労死」の責任を直接問うものではないということだ。裁判所は、電通のずさんな労働時間管理などが、高橋まつりさんの死を招いたことを認めている。しかし、直接の判断対象は、高橋まつりさんを含む従業員4人に、違法残業をさせた労働基準法違反についてだ。

まつりさんの母・幸美さんは、判決後の記者会見で「労働基準法違反により労働者が死亡した場合の罰則が強化されるよう法律の改正を望みます」とコメントした。

大企業にとって、50万円の罰金は痛くもかゆくもない。ネットでは「業務上過失致死」に問えないのか、といった声も見られた。過労死そのものについて、企業や幹部の刑事責任を直接問うことはできないのだろうか。田村優介弁護士に聞いた。

違法残業問題で労働基準法違反に問われた「電通」。東京簡裁は10月6日の判決で、求刑通り50万円の罰金を命じた。

ポイントは、今回の裁判は「過労死」の責任を直接問うものではないということだ。裁判所は、電通のずさんな労働時間管理などが、高橋まつりさんの死を招いたことを認めている。しかし、直接の判断対象は、高橋まつりさんを含む従業員4人に、違法残業をさせた労働基準法違反についてだ。

まつりさんの母・幸美さんは、判決後の記者会見で「労働基準法違反により労働者が死亡した場合の罰則が強化されるよう法律の改正を望みます」とコメントした。

大企業にとって、50万円の罰金は痛くもかゆくもない。ネットでは「業務上過失致死」に問えないのか、といった声も見られた。過労死そのものについて、企業や幹部の刑事責任を直接問うことはできないのだろうか。田村優介弁護士に聞いた。

●過労死で「告訴」は複数例あるが…

ーー今回の裁判をどう見た?

まず、本件の刑事裁判について、検察は「略式起訴」という、非公開の裁判手続きを求めたのに対し、東京簡易裁判所は正式の公開裁判をすべきだとして検察の請求を不相当とした、という流れになっています。

これまでも、検察は労基法違反事件については基本的に略式起訴で行なっていましたが、長時間労働・過労死の問題が一向に解決せず、もはや放置できないということから、裁判所の判断姿勢が変わってきたと言えると思います。

刑事処分そのものは、罰金50万円という内容ですが、事件が多数報道されるという社会的影響は甚大であり、一歩前進であるという評価はできると思います。

ーー刑事ではなく、民事で争われる可能性は?

電通と遺族との間では今年1月、損害賠償金を払うなどの内容で和解が成立しています。金額は公表されていません。参考までに1991年の電通過労自殺事件では、遺族に約1億6800万円の支払いをする和解がなされています。

ーー今回の罰金50万円は軽くない?

今回立件されたのは「長時間労働」(違法残業)という労基法違反に対する刑事罰であり、罰金が低廉なものになるのは法律上の制約があり、やむを得ません。

ただし、長時間労働に対する規制強化という観点から、立法論として、刑事処分の罰金についても実効性のある金額に上限を引き上げるべきという議論は、一考に値すると個人的には考えています。

ーーそもそも過労死を出したことについて刑事責任を問えないの?

過労死・過労自殺は「業務上過失致死傷」に該当しうるかが論点になるでしょう。業務上過失致死傷とは、「業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷」させる犯罪です。

長時間労働による過労死・過労自殺は、従業員が長時間労働に従事していることを知りながら、解決することなく人を死に追いやっているわけです。個別事情によっては、経営者らに業務上過失致死が成立することもあり得るとしか考えられないと、個人的にはずっと思っています。

しかしながら、同罪で経営者らを告訴しているケースは複数あるようですが、起訴や判決があったという情報は、今回改めて調べてみましたが接することができませんでした。

これまで事実上適用がなされていないのは、一種の政策的判断など様々な事情があると考えられますが、上記のように理論上は成立し得ると思われます。長時間労働の撲滅のため、過労死・過労自殺の中でもとりわけ悪質なケースでは、業務上過失致死などの重い罪を適用すべきである、との世論を喚起することには大きな意義があると思います。

(弁護士ドットコムニュース)

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