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「司法取引」6月開始、虚偽供述による冤罪リスクをどう考える? 元警察官僚の弁護士が解説
2018年02月03日 08時46分

法務省が1月24日、司法取引を2018年6月から始める方針を明らかにしたと報じられている。被疑者や被告人が共犯者の犯罪に関する情報をもたらす見返りとして、検察官が起訴を見送ったり、求刑を減らしたりできるというものだ。

2016年5月に刑事訴訟法が改正され、司法取引が新たに規定された。対象となる犯罪は、詐欺や贈収賄といた経済事件や汚職、薬物・銃器事件に限られる。犯罪捜査が円滑に進むと期待される一方、虚偽の供述により冤罪を生みかねないとする懸念の声も上がっている。元警察官僚で刑事事件に詳しい澤井康生弁護士に、司法取引への期待と懸念を聞いた。

法務省が1月24日、司法取引を2018年6月から始める方針を明らかにしたと報じられている。被疑者や被告人が共犯者の犯罪に関する情報をもたらす見返りとして、検察官が起訴を見送ったり、求刑を減らしたりできるというものだ。

2016年5月に刑事訴訟法が改正され、司法取引が新たに規定された。対象となる犯罪は、詐欺や贈収賄といた経済事件や汚職、薬物・銃器事件に限られる。犯罪捜査が円滑に進むと期待される一方、虚偽の供述により冤罪を生みかねないとする懸念の声も上がっている。元警察官僚で刑事事件に詳しい澤井康生弁護士に、司法取引への期待と懸念を聞いた。

●協力の代わりに、不起訴や軽い罪名での起訴

ーー司法取引とはどのようなものでしょうか

「導入される司法取引は『捜査・公判協力型協議・合意制度』と言われているもので、一定の重大犯罪が対象です。

検察官と被疑者・被告人が弁護人の同意の下に、被疑者・被告人が共犯者などの他人の刑事事件の解明に役立つ供述をしたり、証拠を提出したりするなどの協力行為を行い、検察官がその見返りとしてその被疑者・被告人を不起訴にしたり、軽い罪名で起訴したり、求刑を軽くしたりするなどの合意ができる制度です」

ーーどのような目的があるのでしょうか

「組織犯罪の捜査において、末端の構成員の罪を軽くする代わりに首謀者にかかる犯罪事実を供述させ、突き上げ捜査を容易にすることで、組織犯罪の全容を解明することです」

●組織犯罪の全容解明にはプラス

ーーご自身も組織犯罪の全容解明の難しさを経験されたのでしょうか

「私も警視庁時代に、組織犯罪の捜査において組織の末端の被疑者が自己の刑事責任が問われるのを危惧して共犯者(首謀者ら)の関わる事件について供述を拒否するなどの事件を経験しました。

また弁護士になってからも、刑事裁判で共犯者を証人尋問したところ、この共犯者が自己の刑事責任を理由に証言拒絶権を行使して何も語らず、真相が解明できない事件も経験しました。したがって、今回の司法取引導入は組織犯罪や共犯者が存在する事件の全容解明に有用といえ、捜査実務上も必要性が高いということがいえます」

ーー最高裁はこれまで司法取引で得る証拠についてどのように考えていたのでしょうか

「もともと過去の最高裁の判例(平成7年2月22日判決、ロッキード事件)では、刑事免責制度の採用は慎重に考慮して決定すべきであり、これを採用するのであれば刑事訴訟法上明文をもって規定すべきであり、明文がない以上は刑事免責で得られた証拠は許容されないとされていました。

この最高裁の判決から20年以上経過してようやく、刑事免責を含む司法取引制度が刑事訴訟法上明文規定をもって導入されたというわけです」

●虚偽供述で、えん罪を生む危険も

ーー他方で、司法取引の導入を懸念する声も少なくありません

「司法取引制度は突き上げ捜査を容易にするという捜査現場での必要性が高いのですが、反面、懸念事項もあります。

被疑者・被告人が自己の刑事責任を軽くしてもらうために無関係の者を巻き込んだり、共犯者に責任を転嫁するなどの虚偽供述を行い、えん罪を生む危険です」

●捜査資料を見ることのできない弁護人が虚偽供述を見抜くのは困難

ーー虚偽の供述を防ぐために制度上、工夫されているところはありますか

「虚偽供述を防止するために今回の制度は、(1)弁護人が協議・合意の過程に関与する(2)虚偽供述をした者を処罰する、という規定を設けました。

まず(1)について。司法取引を成立させるためには弁護人の同意が必要とされました。これは司法取引に応じる被疑者・被告人の利益を保護するためであると同時に、弁護士は日弁連の規程で偽証をそそのかしたり、虚偽と知りながら証拠を提出してはならないとされていることから、その限度で虚偽供述を防止する効果があるかもしれません。

ただし、実際上は弁護人の関与といっても捜査資料も見ることのできない弁護人の立場では虚偽供述を見抜くのは困難ではないかと思います」

●裁判所は司法取引に基づく供述を慎重に吟味すべき

ーー(2)の処罰規定についてはいかがですか

「今まで被疑者・被告人が他人の刑事事件について虚偽の供述をした場合であっても、法廷において宣誓した証人であるなどの要件を満たさない限り、偽証罪にも問われず、証拠偽造罪にも問われないとされていました(最高裁平成28年3月31日決定)。

これに対して今回の制度は、司法取引制度の中で虚偽の供述をした者に対し5年以下の懲役を科すことで、虚偽供述の防止を図っています。刑法の証拠偽造罪(104条)が2年以下の懲役又は20万円以下の罰金とされているのと比較すると、虚偽供述罪は法定刑が重いので、厳重に処罰することで虚偽供述を防止する趣旨といえます。

しかしながら、上記(1)(2)の制度では、虚偽供述によるえん罪の危険を完全に防止することは困難です」

ーーでは実際の裁判ではどのような点が注意されるべきでしょうか

「最終的には他人の刑事事件の裁判において、裁判所が司法取引の合意に基づく供述について客観的な補強証拠や裏付け証拠がない場合には、その信用性を慎重に吟味するしかないのではないかと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

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