12249.jpg
使用料問題、音楽教室がJASRAC提訴へ…どちらが「音楽文化の発展」に寄与するか
2017年05月24日 09時54分

「JASRAC」(日本音楽著作権協会)が、楽器の演奏を教える音楽教室から著作権の使用料を徴収する方針を決めたことをめぐり、音楽教室大手の「ヤマハ音楽振興会」はこのほど、支払い義務がないことの確認を求める訴訟を起こす方針を固めた。

JASRACは2018年1月から使用料の徴収スタートを目指している。すでに、ヤマハや河合楽器製作所など、音楽教室の運営側に使用料を年間受講料収入の2.5%とする規定案を提示しており、7月にも文化庁に使用料規定を提出する予定だという。

一方、ヤマハなどは「音楽教育を守る会」を結成したうえで、JASRACに対して「演奏権は及ばない」と主張している。ヤマハは7月にあわせて、使用料の支払い義務がないことの確認を求める訴訟を東京地裁に起こす方針だ。

今後、「音楽教育を守る会」に加わる事業者に対しても、原告に加わるよう呼びかけるという。もし、ヤマハがJASRACを訴えた場合、争点はどこになるのだろうか。著作権にくわしい高木啓成弁護士に聞いた。

「JASRAC」(日本音楽著作権協会)が、楽器の演奏を教える音楽教室から著作権の使用料を徴収する方針を決めたことをめぐり、音楽教室大手の「ヤマハ音楽振興会」はこのほど、支払い義務がないことの確認を求める訴訟を起こす方針を固めた。

JASRACは2018年1月から使用料の徴収スタートを目指している。すでに、ヤマハや河合楽器製作所など、音楽教室の運営側に使用料を年間受講料収入の2.5%とする規定案を提示しており、7月にも文化庁に使用料規定を提出する予定だという。

一方、ヤマハなどは「音楽教育を守る会」を結成したうえで、JASRACに対して「演奏権は及ばない」と主張している。ヤマハは7月にあわせて、使用料の支払い義務がないことの確認を求める訴訟を東京地裁に起こす方針だ。

今後、「音楽教育を守る会」に加わる事業者に対しても、原告に加わるよう呼びかけるという。もし、ヤマハがJASRACを訴えた場合、争点はどこになるのだろうか。著作権にくわしい高木啓成弁護士に聞いた。

●「演奏権」を侵害しているかどうか

「訴訟になった場合の争点を一口で言うと、音楽教室での演奏が、著作権者の『演奏権』を侵害するかどうかです。

『演奏権』とは、著作権に含まれる1つの権利です。具体的には、公衆に聞かせることを目的として演奏する場合、著作権者の許諾が必要となります。

ですので、音楽教室での演奏が『公衆に聞かせることを目的として演奏している』といえるかどうかが問題になります。

ポイントは、(1)『公衆に』という点と(2)『聞かせることを目的として』という点です」

●生徒への演奏が「公衆に」に当たるかどうか

「コンサートと異なり、音楽教室で先生が生徒に教える際に演奏することは、『公衆に』といえないのではないか、ということが争点になると考えられます。

ただし、音楽教室と類似する『社交ダンス教室』で、受講生のみに向けてCDを再生すること(CDの再生も『演奏』に含まれます)が、『公衆に』にあたるという裁判例があります。JASRAC側はこの裁判例を根拠に、音楽教室の場合も『公衆に』にあたると主張しています。

もっとも、この裁判例では、社交ダンス教室が『一度に数十名の受講生を対象としてレッスンを行うことも可能』であることが1つの要素として考慮されています。

音楽教室の場合、社交ダンス教室と異なり、一度に数十名の生徒を対象とするレッスンは想定されていないようにも思いますので、社交ダンス教室の裁判例が、そのまま音楽教室にもあてはまるかどうか、断定はできないと思います」

●「聞かせることを目的として」にあたるかどうか

「ヤマハ側は、音楽教室での演奏は、指導や練習のためであって、楽曲そのものの鑑賞のためでないので、『聞かせることを目的として』にあたらず、『演奏権』の侵害にはならないと主張しています。

JASRAC側は、ヤマハの主張は法律を勝手に解釈している、と主張しています。JASRAC側は、指導や練習のためであっても『聞かせることを目的として』にあたるという主張です。

この点については、社交ダンス教室の裁判例で争点になっていませんので、裁判所でどのように判断されるか注目されます」

●「音楽文化の発展」というポイント

「訴訟になったときの直接の争点ではありませんが、どちらが『音楽文化の発展』に寄与するか、ということも議論になっています。

JASRAC側は、音楽教室から使用料を徴収して、著作者に分配することが『音楽文化の発展』に寄与する、と主張しています。

たしかに、一部を除き、多くの作詞家・作曲家さんは安定しない生活であり、アルバイトをしながら生活を切り詰めて作家活動をしている方も少なくありません。特に、CDが売れない現代では、JASRACができる限り多くの使用料を徴収しなければ、作家生活が成り立たず、音楽文化が衰退していくことも想定されます。

一方、ヤマハ側は、音楽教室から使用料を徴収することになると、音楽教室の先生は、クラシックなどの著作権が切れている楽曲だけを教えるようになり、これでは『音楽文化の発展』が阻害されると主張しています。

たしかに、生徒が『この曲を演奏してみたい』とJ-POPを持ち込んでも、先生が『うちではクラシックしか教えられないんだよ』と拒否することになると、子どもに多様な音楽を教えることができなくなってしまいます。

また、発表会での演奏などについては、これまでJASRACに使用料が支払われていましたが、音楽教室がクラシックだけしか扱わないようになると、発表会での演奏についてもJASRACに使用料を支払う必要がなくなり、これでは本末転倒です。

『どちらが音楽文化の発展に寄与するか』という点は、とても難しい問題だと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る