横浜市の化学機械メーカー「大川原化工機」の社長ら3人が無実の罪で逮捕された「冤罪事件」をめぐり、警視庁と検察庁が8月7日、検証結果を公表した。
これを受けて、同社の大川原正明社長は「今までよりはよくなると見受けられたが、警察官や検察官の心の持ち方、考え方を変えないといけないのではないか」と述べた。
代理人の高田剛弁護士は「一番検証しなければいけない不都合な事実を検証しきれていない」と指摘した。
●警察と検察の対応に「期待した内容になっていない」
今回の事件について、警視庁と最高検はそれぞれのウェブサイト上で報告書を公表。「捜査機関解釈に対し経産省が疑問点を示していたにもかかわらずその合理性を再考することなく捜査を進めた」「警視庁公安部に対し、一定の補充捜査事項の指摘はしていたが、消極証拠の確認や、事案の実態を正確に把握すること等が不十分であった」などと複数の問題点を明記した。
これを受けて、大川原社長と元取締役の島田順司さん、代理人の高田弁護士が東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見を開いた。
大川原社長は、報告書について「少なくとも、今までよりはよくなる方向にあるということは見受けられました」と一定の評価を示しつつも、「取り調べをできるだけオープンにすることなどに突っ込んでおらず、人質司法の問題についてもこちらが期待した内容になっていませんでした」と述べた。
違法な取り調べを受けた島田さんは「捜査側が違法な捜査をできない仕組みが必要だとずっとお願いしてきたが、被疑者側から録音録画をさせてほしいということが認められていない点が不満です」と批判した。
●警視庁の処分「検証の足りなさを鏡のように反映している」
報道によると、警視庁は公安部の幹部ら計19人について処分または処分相当としたという。
これについて高田弁護士は、19人のうち14人が幹部だったと指摘したうえで、「警視総監は捜査指揮系統の機能不全が問題だったというが、今回の事件の大きな問題は現場の管理官などが暴走して3人を逮捕したことであり、一番検証しなければいけない不都合な事実を検証しきれていない。現場職員の処分が軽いのは、検証の足りなさを鏡のように反映している」と批判した。
また、勾留中にガンが見つかり、無実を知らずに亡くなった同社元顧問、相嶋静夫さんの保釈を反対し続けた検事らが懲戒処分を受けていない点については、「別の検事だったとしてもこの事件は生まれたんだという価値判断を最高検が示したのだと受け止めている」と話した。
●元顧問の遺族「第三者のいない検証は遺憾」
相嶋さんの遺族は、報告書に納得できないとして、この日の記者会見には参加せず、高田弁護士がコメントを代読した。相嶋さんの長男によるコメント全文は以下の通り。
「警視庁および最高検察庁の検証が、我々が望んだ第三者を入れた透明性のある体制で行われなかったことは遺憾です。 しかし、短期間である程度しっかりした検証および再発防止策を立てていただき、本件は逮捕、勾留されるべきでない事件であったことを正式に認めていただきました。このことから再発防止に向けて一歩前進したと評価しています。 本事件により、もはや警視庁、検察庁は国民の脅威となってしまいました。 これを深く反省し再び真の警察・検察として国民の信頼を得られることを望んでいます。そのために被害者の立場から組織の再生に協力して参ります。 これから家族と相談して、どのように謝罪をいただくか検討して参ります」
(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)