12385.jpg
「成人向け同人誌」ほしがる未成年 ルール違反みかけたサークル参加者「節度を守って」
2019年10月26日 09時43分

「最近同人誌即売会で、成人向け同人誌を大人が買って未成年に渡すというケースが出ています。代理購入までサークル側の手は及びません。法律・条例に違反してるか取り上げて欲しいです」

同人誌を制作しているという岩手県の50代女性から、弁護士ドットコムのLINE公式アカウントに取材依頼が寄せられた。

女性はこうしたケースについて、「どうしてもその作品が欲しいから、悪気なくこうした行為に走るのでは」と想像する。

取材を進めると、成人向け同人誌を作るサークルからは「どう対処するのが最善か、イベントの度に考えています。この問題は多くの成人向け作品を出してるサークルが常に抱えています」という声が聞こえて来た。

「最近同人誌即売会で、成人向け同人誌を大人が買って未成年に渡すというケースが出ています。代理購入までサークル側の手は及びません。法律・条例に違反してるか取り上げて欲しいです」

同人誌を制作しているという岩手県の50代女性から、弁護士ドットコムのLINE公式アカウントに取材依頼が寄せられた。

女性はこうしたケースについて、「どうしてもその作品が欲しいから、悪気なくこうした行為に走るのでは」と想像する。

取材を進めると、成人向け同人誌を作るサークルからは「どう対処するのが最善か、イベントの度に考えています。この問題は多くの成人向け作品を出してるサークルが常に抱えています」という声が聞こえて来た。

●代理購入、目の当たりに

「万が一なにか起こったときには、自己責任の世界。サークル側も気をつけているけど、これまで同人誌を好きな人たちが、頑張って作り上げてきた文化を崩すのはとても簡単だと思います」

こう話すのは、同人誌即売会で「代理購入」を目の当たりにしたことがあるサークル参加者のAさん。Aさんは、女性向けで成人向けの同人誌を頒布していた。表紙に18禁であることを明示し、中身も性器の一部を黒ベタで修正している。

Aさんは、30〜40代くらいの女性に同人誌を販売したが、その後、少し離れたところにいた中学生くらいの女の子に本を渡す姿を目撃。女の子は、Aさんの同人誌の中身を確認した上で、リュックにしまったという。

購入する人も次々に来る中、席を立つこともできず、Aさんはその場から手招きして女性を呼んだが、去って行った。

●「信頼関係で成り立っている」

刑法175条は「わいせつな文書、図画、電磁的記録」などを配ったり、公然と陳列したりすることを禁止している。多くの同人誌即売会の要項では刑法上の「わいせつ」(刑法175条1項)に抵触する同人誌の頒布は禁止されており、商業誌と同様に、性器の露骨な描写などには黒ベタなどの修正が施されている。

また、刑法上の「わいせつ」にあたらない場合でも、地域の青少年条例の有害図書にあたる場合もある。東京都の青少年条例では、性的感情を刺激する図書などを青少年に頒布、販売、閲覧などさせないように努めるよう定められている。

国内最大規模の同人誌即売会「コミックマーケット(コミケ)」がサークル参加者向けに送っている冊子「コミケットアピール」にも、青少年条例の自主規制対象となるものについては「18歳未満か判断がつきにくい場合には身分証等で年齢確認を行い、18歳未満には販売、頒布、閲覧等をさせないで下さい」と記載がある。

Aさんが別のサークルで売り子をした際には、成人向けの本を頒布していると分かった上で未成年が買いに来ることもあった。そこで身分証の提示をお願いしたところ、買うのをやめた人もいたそうだ。

「自分で年齢確認される立場とわかっている人は身分証を持って来ますし、大体の人はマナーを守ってやっている。お互いに迷惑をかけないために、節度を守っている」

「誰かに頼んで買ってもらいたいほど、読みたい気持ちもわかります。でも、作者への敬意があるなら、ルールは守ってほしい。同人誌の即売会は、信頼関係で成り立っていて、皆が注意しあってやってきた。結局は気遣いの問題だと思っています」

●法的には?

こうした行為は法的に問題ないのだろうか。鐘ケ江啓司弁護士は「この問題で適用が考えられるのは、青少年健全育成条例と、刑法の詐欺罪」だと話す。

「ただ、例えば東京都の青少年健全育成条例については、指定図書でない同人誌の販売等の禁止はあくまで努力義務のため、購入者や販売者、代理購入業者に犯罪が成立することはありません。

また、詐欺罪も財産上の損害がない場合には、詐欺罪は成立しないなどと言われることもあり、未成年が成人と偽って成人向け雑誌を買うような事例も実務や学説で、詐欺罪が成立しないと想定されています」

一方で、サークルが代理購入業者には販売しないといった対応をとることも、法的に問題はない。鐘ケ江弁護士は「誰に売るかはサークルが決めることです。イベント運営者やサークルが自主ルールを定めて運用していくことが適切な対処でしょう」と話した。

●運営側「自分のスペースをしっかり見てもらうことが第一」

イベント運営側は、どう考えているのだろうか。

「売られた後まで全て責任をとるというのは難しい。サークルがせめてやれることは、作品がR18に該当するか判断することと、自スペース前に来た18歳未満の参加者に閲覧・頒布しないように配慮することの2点です」

サークルの頒布責任についてこう話すのは、同人誌即売会「COMICCITY」などを運営する「赤ブーブー通信社」(東京都新宿区)の頒布物担当者だ。

HPでも「R18について考えよう」と発行時の注意点をまとめ、サークルの頒布責任について「一旦サークルの手許から離れたR18同人誌は、その同人誌の所有者が管理者として家庭内においても18歳未満の者に閲覧させないように努力する必要があります」と記載している。

ここ十数年、代理購入について具体的に相談されたことはないと言い、「参加者側の意識は相当高い。だからこそ、ルールを守らない人が目立つのかもしれない」とみる。

「サークル参加者には自分のスペースをしっかり見てもらうことが第一です。同人誌即売会なら悪質なケースを特定できれば、その人にイベントに来ないでくださいなどの通告や個別の対応が可能で、代理購入だけでイベント全体が崩れることはないと思っています」

それよりもイベント運営側として注意しているのは、R18作品を置いたままサークルスペースが無人になることだ。席を離れる場合は、未成年者による立ち読みを防ぐため、机の下に隠したり、布を被せたりするよう徹底してほしいと話す。

イベントの入場時に運営側として全員に年齢確認を行うのは物理的に難しく、赤ブーブー通信社では、R18作品を置いたまま席を外しているサークルを見かけた場合、一時的に販売停止の札を貼っている。1回のイベントで10~20件ほどあるという。

「水際で止められることこそが即売会の強みです。これが守られなければ、R18エリアを区分けしたり、1冊ずつ袋に入れてもらったりしなければいけなくなります。サークル参加者にも一般参加者にも負担となり、今の即売会の形がガラッと変わる可能性があると思います」

同人誌即売会は、自分たちでルールを作り、秩序を保ってきた歴史がある。何か問題がおきれば自主規制を余儀なくされる恐れもあり、好きなものを守るために主催者やサークル側は入念な対策をしている。すべての参加者が人に迷惑をかけない範囲で楽しむことが大前提だろう。

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る