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職員のミスで本来より長く「刑務所」に 補償は受けられるのか?
2013年01月30日 18時23分

東京の府中刑務所に収監されていた男性が、担当職員のミスで、本来の刑期より61日間も長く服役させられるという事件が起きた。

報道によると、この男性は、懲役刑を受けて刑務所で服役後、満期になる前に仮釈放されたが、法律違反を起こして再び収監された。本来であれば、すでに刑が執行された日数を差し引く必要があったのだが、担当の保護観察官が執行済みの服役期間の記載を忘れたため、本来より61日間長く服役することになってしまったという。

男性はすでに刑務所を出ているが、失った時間は返ってこない。このように行政機関の不手際で本来より長く服役した場合、補償を求めることはできるのか。刑事弁護に詳しい大久保誠弁護士に話を聞いた。

●国家賠償法によって、国に損害賠償を請求できる

「このようなケースの場合、国家賠償法1条1項により損害賠償請求ができると考えられます」と大久保弁護士は説明する。国賠法1条1項には、次のように書かれている。

「国または公共団体の公権力の行使にあたる公務員が、その職務を行うについて、故意または過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国または公共団体が、これを賠償する責に任ずる」

つまり、国などの「公権力の行使にあたる公務員」が、その職務を執行する際に、「故意か過失で損害を与えたとき」は、国などが賠償責任を負うということだ。

今回の場合は、元受刑者の刑期のうち、すでに執行された日数を差し引く必要があったにもかかわらず、担当の保護観察官が「執行済みの服役期間」について記載を忘れている。その点について、大久保弁護士は「明らかに、公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて過失によって当該受刑者に損害を与えた、ということは疑いようがありません」と指摘する。

すなわち、今回のケースは、国賠法1条1項に該当する可能性が大きいということだ。では、国に賠償請求できるとして、その金額はどれくらいになるのだろうか。

「賠償額は、当該受刑者の方の事情によって異なるので、一概にはいえません。たとえば、就職が決まっていたのに不当な拘束により就職ができなくなったなどの事情があれば、その分が考慮されます」

このように説明しながら、一例として、「刑事補償法4条1項の補償基準である『1日1000円以上1万2000円以下』を参考に請求額をカウントするのもよいでしょう」と大久保弁護士は話している。

ちなみに、「本件は、刑事補償法そのものが、適用される場合ではありません」ということだ。刑事補償法は、無罪判決を受けた人の救済を目的としているので、「有罪だが、本来より長く服役させられた」今回のケースには直接あてはまらない、という。

行政機関の不手際により本来より長く服役するということは、不当に自由の身を拘束されるということを意味する。絶対にあってはならないことだが、もしそのような目に遭ってしまった場合は、国などに賠償を求めることができるということだ。

(弁護士ドットコムニュース)

東京の府中刑務所に収監されていた男性が、担当職員のミスで、本来の刑期より61日間も長く服役させられるという事件が起きた。

報道によると、この男性は、懲役刑を受けて刑務所で服役後、満期になる前に仮釈放されたが、法律違反を起こして再び収監された。本来であれば、すでに刑が執行された日数を差し引く必要があったのだが、担当の保護観察官が執行済みの服役期間の記載を忘れたため、本来より61日間長く服役することになってしまったという。

男性はすでに刑務所を出ているが、失った時間は返ってこない。このように行政機関の不手際で本来より長く服役した場合、補償を求めることはできるのか。刑事弁護に詳しい大久保誠弁護士に話を聞いた。

●国家賠償法によって、国に損害賠償を請求できる

「このようなケースの場合、国家賠償法1条1項により損害賠償請求ができると考えられます」と大久保弁護士は説明する。国賠法1条1項には、次のように書かれている。

「国または公共団体の公権力の行使にあたる公務員が、その職務を行うについて、故意または過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国または公共団体が、これを賠償する責に任ずる」

つまり、国などの「公権力の行使にあたる公務員」が、その職務を執行する際に、「故意か過失で損害を与えたとき」は、国などが賠償責任を負うということだ。

今回の場合は、元受刑者の刑期のうち、すでに執行された日数を差し引く必要があったにもかかわらず、担当の保護観察官が「執行済みの服役期間」について記載を忘れている。その点について、大久保弁護士は「明らかに、公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて過失によって当該受刑者に損害を与えた、ということは疑いようがありません」と指摘する。

すなわち、今回のケースは、国賠法1条1項に該当する可能性が大きいということだ。では、国に賠償請求できるとして、その金額はどれくらいになるのだろうか。

「賠償額は、当該受刑者の方の事情によって異なるので、一概にはいえません。たとえば、就職が決まっていたのに不当な拘束により就職ができなくなったなどの事情があれば、その分が考慮されます」

このように説明しながら、一例として、「刑事補償法4条1項の補償基準である『1日1000円以上1万2000円以下』を参考に請求額をカウントするのもよいでしょう」と大久保弁護士は話している。

ちなみに、「本件は、刑事補償法そのものが、適用される場合ではありません」ということだ。刑事補償法は、無罪判決を受けた人の救済を目的としているので、「有罪だが、本来より長く服役させられた」今回のケースには直接あてはまらない、という。

行政機関の不手際により本来より長く服役するということは、不当に自由の身を拘束されるということを意味する。絶対にあってはならないことだが、もしそのような目に遭ってしまった場合は、国などに賠償を求めることができるということだ。

(弁護士ドットコムニュース)

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