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「漫画村」有罪の後に控えるのは「巨額の損害賠償」か、福井健策に聞く「判決の意義」
2021年06月02日 19時20分

海賊版サイト「漫画村」の運営者だったとされる星野路実(ろみ)被告人が、著作権法違反と組織犯罪処罰法違反の罪に問われた事件。

福岡地裁は6月2日、懲役3年、罰金1000万円、追徴金約6257万円(求刑懲役4年6カ月、罰金1000万円、追徴金約6257万円)の有罪判決を言い渡した。

この事件をめぐり、著作権にくわしい福井健策弁護士は「安易に大規模な侵害行為をおこなえる現代はまた、当人も、容易に人生が破壊される規模の責任を負いかねない時代でもある」と話している。

海賊版サイト「漫画村」の運営者だったとされる星野路実(ろみ)被告人が、著作権法違反と組織犯罪処罰法違反の罪に問われた事件。

福岡地裁は6月2日、懲役3年、罰金1000万円、追徴金約6257万円(求刑懲役4年6カ月、罰金1000万円、追徴金約6257万円)の有罪判決を言い渡した。

この事件をめぐり、著作権にくわしい福井健策弁護士は「安易に大規模な侵害行為をおこなえる現代はまた、当人も、容易に人生が破壊される規模の責任を負いかねない時代でもある」と話している。

●星野被告人は2019年に逮捕・起訴された

人気マンガ・アニメを違法アップロードして、だれでも閲覧できるようにした海賊版サイトは、出版・アニメ業界にダメージを与えている。

政府は2018年、特に悪質な海賊版サイトの1つとして「漫画村」を名指し。緊急的な措置として、民間の事業者が自主的にブロッキングをすることが適当とする決定をおこなった。漫画村はその後、閉鎖された。

運営していたとされる星野被告人は2018年春には警察の任意聴取と関係先捜索を受けていたが、2019年、滞在先のフィリピンで拘束、日本に強制送還されて逮捕・起訴された。

●著作権法違反と組織犯罪処罰法違反の罪に問われた

朝日新聞によると、星野被告人は2017年5月、人気漫画「キングダム」と「ワンピース」の画像ファイルを「漫画村」のサーバーに保存し、誰でも見られるようにした著作権法違反(公衆送信権侵害)の罪に問われた。

また、2016年12月から2017年11月にかけて、漫画村で得た広告収入など、計約6257万円を海外口座などに送金させて、犯罪収益を隠すなどした組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)の罪にも問われた。

今回の判決のポイント・意義はなんだろうか。福井弁護士に聞いた。

●過去最大の刑期にならなかったが、海賊版裁判への影響は大きい

――判決のポイントは?

実行犯と共謀した著作権侵害(公衆送信権侵害)に加えて、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)も認めています。

主な争点として、まず弁護側は<大半の作品はリバースプロキシ(※)という設定で配信されるので、被告人が公衆送信(送信可能化)しているとは言えない>と主張しました。

しかし、裁判所は<漫画村は、ユーザのリクエストがあると第三者の海賊版サーバに画像データを取りにいき、自社のサーバを介してユーザに画像データを送信しているのだから、自ら送信行為をおこなっている>と認定しました。

また、弁護側は<漫画村はアフィリエイト広告で収入を得ていたが、これは海賊版を読ませる対価ではなく、ユーザが広告をクリックしたことの対価なので「著作権侵害という犯罪による収益」ではない>と主張しました。

これについても、裁判所は、<海賊版を読ませることはユーザが漫画村にアクセスして広告をクリックする動機そのものだから、両者は強く結びついており、広告収入は犯罪収益と言える>と認定しています。

――判決の意義は?

史上最悪のマンガ海賊版(当時)の実質的な運営者の刑事事件でしたが、刑期は、情状も考慮して懲役3年の実刑です。2019年のリーチサイト「はるか夢の址」の運営者たちは、懲役2年4月〜3年6月で確定しているため、著作権侵害として過去最大の刑期にはなりませんでした。

一方、アフィリエイト広告収入を犯罪収益として、6000万円以上の追徴金を課したことは、今後の海賊版裁判への影響が大きいでしょう。

また、この追徴金は、被害回復にも使われますが、ルール上、民事の損害賠償とは別のものです。「はるか夢の址」の際には、講談社の8誌分だけで、1億6000万円の損害賠償が民事裁判で命じられました。

漫画村の配布規模はこれを大幅に上回り、出版界全体なら潜在的な賠償額はさらに巨大に膨らむでしょう。安易に大規模な侵害行為をおこなえる現代はまた、当人も、容易に人生が破壊される規模の責任を負いかねない時代でもあると言えます。

――海賊版対策の現状と課題は?

オンライン海賊版は、漫画村の閉鎖以後、出版界・IT界・政府などの力を結集してかなり抑え込めていました。

しかし、2020年に入って、リーチサイト(ダウンロード型)が急減する一方、ストリーミング型のマンガ海賊版サイトの伸びが止まらず、現在の上位10サイトのアクセス数は、史上最悪の月間2億5000万に達しています。

この間、身元解明の技術は格段に上がりましたが、海外のいくつかの「海賊版天国」から発信を続ける犯人の摘発に時間がかかり過ぎています。そのため、対策のカギは、国際的な協力のネットワーク作りで、現在、懸命に進められています。

無論、海賊版の抑え込みと共に「正規版」マンガのさらなる進化も重要です。そして、マンガ・アニメを守るためにファンができる最大の応援は、海賊版を見ないことであるのは言うまでもありません。

●講談社「当然の結果と考えます」

なお、この日の判決を受けて、出版大手の講談社は次のような声明を出している。

「『漫画村』は2016年の開設以降、2017年から2018年にかけてユーザーの膨大なアクセス数をベースに、巨額の不正な利益を得たサイトです。

その首謀者かつ運営の中心にいたと目される星野被告に実刑判決が出たことは、当然の結果と考えます。

マンガを中心とした海賊版の被害は、3年前の『漫画村』閉鎖以降も深刻なものです。依然として著作者の利益を不当に侵害しつづけています。

講談社はこれまで通り、刑事告訴、民事訴訟の提起を含めて、さまざまな対策を進めて海賊版の撲滅に向けて努力してまいります」

(※)サーバーへの通信を別のサーバーに中継する仕組み

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