居酒屋や焼き鳥屋にずらりと並ぶメニュー。どれも美味しそうで、注文をなかなか決められない。でもお腹は減っているし、早くお酒も飲みたい……そんなとき、このような頼み方をすることは無いだろうか?
「焼き鳥を5本ください、おまかせで」
まさに筆者がそうだ。メニューに「盛り合わせ」があればそれを頼むのだが、無い場合はおなかの空き具合によって「おまかせで5本」などと注文する。
好き嫌いがほとんどなく、注文を考えるのが面倒なので、よくこのような頼み方をしてしまう。同じような理由で、「今日のオススメ」のメニューがあればそこから注文するが、無い場合は「オススメは何ですか?」と聞き、それを頼むことも。
だが、飲食店側からすると、「おまかせで!」「オススメは?」はもしかしたら迷惑なこともあるのではないか。実際に、そう感じるような対応の飲食店もあった。
本音を知るべく、いくつかの飲食店に取材をした。(ジャーナリスト・肥沼和之)
●「うちは大歓迎」食材ロスを防ぐ
10席程度、一人で切り盛りする居酒屋の店主は、「うちは大歓迎ですよ」と話す。
「おつまみを適当に3品、というようなざっくりした注文でも、味の好みやアレルギーの有無を聞いたうえでお出しします。店側としては、食べてもらいたいものを出せる。何なら、賞味期限が近い食材を出しても良いわけですから」
ちなみにこの店は、お通しを提供していない。お通しがあれば、早く使い切りたい食材を使うことができるが、そうでないため、食材のロスを防ぐ意味でも「おまかせ」「オススメ」は歓迎なのだと続けた。
●「好き嫌いもわからないのに」と困惑する店も
異なる意見だったのは、カウンターだけの焼き鳥屋の店主。「おまかせで5本」というような頼み方には困惑するという。
「常連ならともかく、そうでないお客さんは、好き嫌いも何もわかりません。それなのに『おまかせで』と言われても困る。せめて最初に好みを伝えてほしい」
前述の店主とは違い、客側から情報を出してもらえないと応じられない、というスタンスだ。その根底には、料理人として「お客さんには好きなものを美味しく食べてほしい」という思いがあると明かす。
とてもよく理解できて、店側にすべて投げっぱなしだった、これまでの自分の「おまかせで」を反省した。せめて、「好みやアレルギーの有無」「食べたいのは定番のものか、希少な部位か」なども伝えておくべきだった。
これまでに数えきれないほど酒場へ行き、「おまかせで」と注文してきて、そのほとんどは問題なく成立したが、もしかしたら不快感を押し殺しながら対応してくれた店もあったのかもしれない。
実際に小さな居酒屋で、「おでんを5つ、おまかせで」と注文したところ、店主に「おまかせって言われてもわからない、ちゃんと注文して」と拒否されたことがある。焼きとん屋でも、「おまかせで5本」と注文したところ、外国人の店員を「わからない」と困らせてしまった。
●「店からすれば、全部がオススメ」
同様に「オススメは?」という質問も、好意的に受け取れないと、ある洋食屋の店主が明かす。
「オススメを聞かれるたびに、『自分の食べたいものがオススメです』と返しています。店からすると、全部のメニューがオススメなんですから。注文くらい自分で決めてほしいですね」
実にさまざまな意見があったわけだが、「おまかせ」「オススメ」を歓迎するお店では、当然のことながら大前提があると、店主たちは口を揃えた。
それは、提供したメニューに対し、もし客が文句を言ったとしても、交換や返金には応じられないということ。確かに、自分で「おまかせ」「オススメ」と言ったのだから、クレームを付けるのは理不尽極まりない。
筆者にはこんな経験がある。以前に焼き鳥屋で「おまかせで5本」を頼んだとき、5本中3本が皮だったのだ。少し困惑したが、もちろん何も言わずにいただいた。仮に5本すべて皮だったとしても、文句は言えない。「おまかせ」にはこのようなこともあるのだと学んだものだった。
●店と客の関係性は見直されている
「おまかせ」「オススメ」を歓迎するお店も、そうでないお店もあることがわかった。後者の場合、客側の姿勢に問題があることも推察できた。「おまかせ」「オススメ」は、店側に全権をゆだねているように見えて、客側の無責任かつ自分本位な頼み方にもなりかねないのだ。
お客様は神様だと長らく言われてきたが、カスハラに屈しない気運の高まりや条例の整備によって、店と客の関係性が見直されていると感じる。
どちらが上・下ではなく、互いに歩み寄って、良好な関係を築ければ一番いい。今度「おまかせ」「オススメ」で注文するときは、お店への配慮や敬意を忘れずに伝えようと、取材を通じて強く思った。