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「マスク着用に応じないことを誇りに思っている」ピーチ機運行妨害事件、14日判決 法廷で被告人が語ったこと
2022年12月13日 22時01分

「マスク(を着用すること)は法的義務でなく推奨である。私は無罪です」。マスク着用をめぐるトラブルでピーチ・アビエーション機の運行を妨害したとして、傷害や威力業務妨害などの罪で起訴された元大学職員の男性は法廷でそう主張を繰り返した。注目の裁判の判決が12月14日、大阪地裁で予定されている。

被告人は自身のTwitterやYouTube、またメディアでも「マスパセ」「マスク拒否男」として自身の考えを主張し、注目を集めていた。裁判では事件後、自身や被告人の妻に対して嫌がらせがあったことも明かされた。判決を前に、事件や被告人の法廷での様子を振り返りたい。(裁判ライター:普通)

「マスク(を着用すること)は法的義務でなく推奨である。私は無罪です」。マスク着用をめぐるトラブルでピーチ・アビエーション機の運行を妨害したとして、傷害や威力業務妨害などの罪で起訴された元大学職員の男性は法廷でそう主張を繰り返した。注目の裁判の判決が12月14日、大阪地裁で予定されている。

被告人は自身のTwitterやYouTube、またメディアでも「マスパセ」「マスク拒否男」として自身の考えを主張し、注目を集めていた。裁判では事件後、自身や被告人の妻に対して嫌がらせがあったことも明かされた。判決を前に、事件や被告人の法廷での様子を振り返りたい。(裁判ライター:普通)

●法廷でもノーマスクを貫く被告人の様子

起訴されている罪名は、航空法違反、傷害、公務執行妨害、器物損壊、威力業務妨害と5つに渡っており、被告人はいずれも否認し無罪を主張している。この記事では、最も関心が高いであろう「ピーチ事件」と呼ばれる事件を中心にお伝えする。

事件が起きたのは2020年9月。釧路空港から関西空港に向かうピーチ機内で、マスクの着用を拒否してトラブルとなり、客室乗務員の腕を掴んでねじる行為をはじめ、安全阻害行為等を繰り返し、緊急着陸を余儀なくしたというものである。2021年1月に威力業務妨害などで逮捕されていた。初公判から結審まで実に11回の審理を要した。

初公判が行われた5月17日は、傍聴券の配布となった。多数の傍聴希望者が殺到することも想定されたが、倍率は2倍にも満たなかった。

法廷での被告人は、ノーマスクを貫いた。その他、体調に不安ありということで、本来禁止されている証言台などで水を飲む行為も、申請を行い認められていた。法廷でも自分のやり方は曲げない。そんな意志の強さを感じることは法廷でも度々あった。

当たり前のことだが、ノーマスクだと表情がよく見える。椅子の背もたれに大きくもたれかかり、ニヤニヤとした表情を浮かべていたのが印象深い。

しかし、これらの態度は検察官からの被告人質問で、「証人尋問を見ていたときに睨みつけていましたね」、「笑みを浮かべていましたね」などと指摘を受けることになった。

ピーチ社からは、客室乗務員2名、オペレーションセンターの管理者、統括本部長の4名が証人として出廷した。

傷害被害を受けたとされる乗務員は、事件で精神的苦痛を受けたことから、約1年フライトが出来なくなったことも明かされた。普通に生活しているだけで、すれ違う人に何か嫌なことをされるのではと怯える日々を過ごしたという。

会社側は「マスク不着用自体を問題視したのではない」と強調した。問題はマスクではなく「飛行後、マスク着用でトラブルになった近くの客への謝罪要求などを大声で多数回行い、安全運航のための業務を阻害された」などと、被告人の行動に問題があったと繰り返し述べた。

対して弁護側は「被告人は質問を行っていただけで、長時間業務を妨害するようなことは行っていない」「離陸前から揉めていたことと、機長がコロンビア人で英語の細かいニュアンスが伝わりにくかったことから、緊急着陸の判断は正しくなされたとは言い難い」などと主張。

●マスク拒否男は法廷で何を語ったのか

被告人自身は、弁護人からの質問の冒頭で、19世紀のヨーロッパでは、公衆衛生の名のもと疫病罹患者が差別の対象になってきたことを例にあげ、コロナ禍における日本人の集団心理、同調圧力の問題について持論を展開した。マスクについては喘息が理由で着用ができないと述べた。

また、ノーマスクでの搭乗については「他の航空会社では窓口でマスク未着用の申請をしたら乗れた。ピーチはHPに『お願い』があっただけで、搭乗後に『マスクをつけないと降りてもらう』と言われた」などと証言した。語り口は丁寧であったが、トラブルの場面を振り返る時などに時折声を大きくすることもあった。

検察官からの質問に対しては、半分近く「お話しいたしません」などと黙秘を貫いた。黙秘権の行使自体は全く問題ない。ただ、期日が終わって法廷を出てその後即座に行った、「検察官は愚か」、「検察官を撃破した」、「非常に稚拙だった」など、事実誤認を生むようなTwitterやYouTubeでの発信にはさすがに眉をひそめた。

被告人は事件後から公判中でさえも事件や航空業界、マスク着用の是非についてツイートやネットでの発信を続けた。

この点を検察官は問題視した。というのも、被告人が署名もしている裁判所に宛てた誓約書で、自身のブログやSNSでピーチへの批判や事件について発信しないと誓約しているのだ。検察官は被告人質問において、いくつかのツイートを読み上げ、被告人の一連の発信はこの誓約書に反するものだと指摘した。

その中で検察官が特に強く指摘したのは以下の箇所だ。証人出廷したピーチの統括本部長は最後にこのように証言した。

「アメリカのテロ以降、未然防止、トラブルはすぐ摘み取ることを官民一体で厳しく行ってきた。アメリカのテロでも模倣犯が発生した。今回も判決次第で模倣する恐れがある。航空の安全運航が非常に困難になるため、厳しい判断をして欲しい」

それに対し、被告人は公判後のTwitterにて

本日出廷したPeachを代表する会社役員は、 「ノーマスクは爆弾テロと同じで、模倣犯が出ないよう処罰を✈」 などと意味不明の持論を披露してました

とツイートした。検察官は後日、このツイートは誤った事実を発信しているとして、特に強く注意を促していた。

その一方で、法廷では被告人やその周囲が、ネットで誹謗中傷による被害も受けていることが明かされた。情状証人として出廷した被告人の妻によると、脅迫文言が書かれたメールが届いたほか、見知らぬ人から「あなたは奥さんですか」などと詮索されたり、被告人の実家がネットで晒されて訪問する人物が現れるなどして、恐怖を感じたと証言をしている。

●「私がしたのは小さなですが、大切な一歩です」

検察官は、自己が気に入らないことは認めず、我欲を押し通し、全国で乱暴狼藉に及んでおり極めて悪質として、懲役4年を求刑した。

弁護人は、どの事件の証拠も明確に犯行を裏付けるものではないと無罪を主張。。そして今回の件はマスク不着用の社会全体の不理解と少数者への排除という強い敵対心と偏見により起きたものとして無罪を主張した。

被告人の最終陳述は30分近くに及んだ。

「マスクをしていないことによる偏見のまなざし、同調圧力がある社会の方が問題がある。法は人権保障を行わなければならない。マスクは法的義務でなく推奨であり、主体性を奪うものだ。私は無罪です。マスク着用に応じないことを誇りに思っています。私がしたのは小さなですが、大切な一歩です。遠くない未来にそう評価されるでしょう」

運行妨害や客室乗務員に対する傷害などのやり方は別にして、公共の場所でのマスク着用のあり方をめぐって社会が考えるきっかけとなった事件だ。裁判所はどう判断するのか注目したい。

【ライタープロフィール】 普通(ふつう):裁判ライターとして毎月約100件の裁判を傍聴。ニュースで報じられない事件を中心にYouTube、noteなどで発信。趣味の国内旅行には必ず、その地での裁判傍聴を組み合わせるなど裁判中心の生活を送っている。

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