12963.jpg
人工知能が著作権侵害を「自動告訴」 AIによる「法の完全執行社会」が到来する?
2016年07月26日 10時29分

人工知能(AI)が音楽や文章、動画などを自動的に作れるようになった時代に、法律はどう対応すべきかーー。著作権に詳しい福井健策弁護士が、そんなテーマの講演を行った。東京都内で7月15日に開催された音楽著作権に関するシンポジウム(日本楽譜出版協会主催)。芸術文化やエンターテインメントの法律問題に精通する福井弁護士が、世界最先端の議論を紹介した。(ライター・長嶺超輝)

人工知能(AI)が音楽や文章、動画などを自動的に作れるようになった時代に、法律はどう対応すべきかーー。著作権に詳しい福井健策弁護士が、そんなテーマの講演を行った。東京都内で7月15日に開催された音楽著作権に関するシンポジウム(日本楽譜出版協会主催)。芸術文化やエンターテインメントの法律問題に精通する福井弁護士が、世界最先端の議論を紹介した。(ライター・長嶺超輝)

●人工知能が作り出した作品の「著作権」はどうなる?

人工知能は、今まで人類が作ってきたたくさんの作品を分析し、「ディープ・ラーニング(深層学習)」という方法を使って、一定のパターンを見つけ出せる。そのパターンに沿って、人間の作品を応用した「派生作品」を瞬時に作り出すことができる。福井弁護士によると、たとえば、猫の写真とゴッホの絵を人工知能に読み込ませると、「ゴッホの絵の中に溶け込んだように見える猫」という派生作品を、一瞬で作ってみせるという。

また、ツイッターの「BOT(ボット)」と呼ばれる人工知能は、人間から質問などのツイートを受け取ると、まるでその質問に返事をしたかのような文章を出力して送り返す。たまに、質問と回答が少しズレていたりもするのだが、そのズレを楽しむファンも多い。

福井弁護士は「天才的に人々を熱狂させる傑作は、もしかすると人工知能には永久に作れないかもしれない。だけど、そこそこ楽しいものなら瞬時に大量生産できる」と、人工知能による「創作」の特徴を解説する。

一方で、人が音楽、小説、イラストなどを創作したとき、その作品を他人が勝手にコピーしないよう保護するのが、著作権という権利である。では、人工知能が作り出した作品に、著作権は発生するのだろうか。

この点について、福井弁護士は「現時点で、人工知能による創作物は、著作物でない。しかも、それを著作物として扱うことが業界から求められてもいない」と、現状を説明する。

なぜなら、現代のウェブの世界を席巻するグーグル、アップル、フェイスブックなどのプラットフォーム業者は、著作権で儲けているわけではないからだという。

たとえば、フェイスブックやグーグルにとって、音楽や文章、動画などの著作物は、サイトにアクセスを集めて多くの人々に広告を見せるための「客寄せ」でしかない。アップルにとっては、音楽や小説、動画などは、iPhoneを使わせるためのネタにすぎないという。

●「法の完全執行社会」は素晴らしいのか?

他方で、人工知能の業界は、人工知能が作った派生作品よりも、ディープ・ラーニングを実現するために必須の要素である「ビッグデータ」「データベース」「アルゴリズム」「学習モデル」などを著作権で保護してほしいのだと、福井弁護士は指摘する。

「創作の保護が二の次になるのは、けしからん話かもしれないが、この流れは止まらないだろう」と、福井弁護士は著作権法の将来を語る。著作権の役割は、創作の保護から、大企業が巨額を投資した「人工知能ビジネスの保護」へと変化するよう迫られているようだ。

また、人工知能は、ネット上にあるコピー著作物(海賊版)などを自動的にパトロールして見つけ出せるようになった。権利者にとっては、とても便利な機能である。

福井弁護士は、そのうち著作権侵害に対する「警告」や「告訴」なども自動でできるようになり、いわば人工知能による「法の完全執行社会」が生まれるかもしれないと予測する。

一方で、「法律が完全に執行されず、ある程度のゆとりがあるからこそ、人間の社会は成り立ってきた。自転車の路上駐輪は良くないが、それを完全に取り締まることは不可能だし、それが不可能なのはいけないことだろうか」と疑問を投げかけていた。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る