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「過労死防止法」が施行――この法律で「労働者の命」を守れるか?
2014年10月26日 11時36分

過労死や過労自殺を防止する対策を国の責務とした「過労死防止法」(過労死等防止対策推進法)。政府は10月14日の閣議で、この法律を11月1日に施行することを決めた。

厚生労働省によると、2013年度に、くも膜下出血や心筋梗塞などの脳・心臓疾患で労災認定されたのは、306人にのぼる。そのうち死亡にいたったケース、つまり過労死は133人に達している。うつ病などの精神疾患でも436人が認定され、未遂を含む自殺者は63人だった。あくまで労災認定を受けた数なので、実際の数は、さらに多いのではないかと指摘されている。

日本の「過労死」は、国際社会でも問題視されてきた。過労死という言葉は、英単語「karoshi」として、オックスフォード英語辞典に掲載されているほどだ。2013年には、国連・社会権規約委員会から日本政府に対して、過労死防止策を強化するよう勧告も出ている。

今回の法施行によって、過労死はなくせるのだろうか。過労死問題に取り組む波多野進弁護士に、この法律の意義と、課題を聞いた。

過労死や過労自殺を防止する対策を国の責務とした「過労死防止法」(過労死等防止対策推進法)。政府は10月14日の閣議で、この法律を11月1日に施行することを決めた。

厚生労働省によると、2013年度に、くも膜下出血や心筋梗塞などの脳・心臓疾患で労災認定されたのは、306人にのぼる。そのうち死亡にいたったケース、つまり過労死は133人に達している。うつ病などの精神疾患でも436人が認定され、未遂を含む自殺者は63人だった。あくまで労災認定を受けた数なので、実際の数は、さらに多いのではないかと指摘されている。

日本の「過労死」は、国際社会でも問題視されてきた。過労死という言葉は、英単語「karoshi」として、オックスフォード英語辞典に掲載されているほどだ。2013年には、国連・社会権規約委員会から日本政府に対して、過労死防止策を強化するよう勧告も出ている。

今回の法施行によって、過労死はなくせるのだろうか。過労死問題に取り組む波多野進弁護士に、この法律の意義と、課題を聞いた。

●「国の責任で対策する」と明記

「今回の法律は、過労死の実態の調査研究、相談体制の整備、民間団体の活動支援などの対策を『国の責任で行う』と、定めています。

過労死の防止対策が、国の責任で行われると明記されたことには、意義があると思います。

また、過労死等で苦しんでいる遺族の『生の声』を聞いて対策に生かしていく制度設計になっている点も評価できます」

波多野弁護士はこのように、肯定的な受け止めを述べる。しかし、この法律には課題もあるという。

「今回の法律は、過労死等の最も大きな原因になっている『過重労働』をどう防ぐかという観点が不十分です。

特に、過重労働の防止に関して、事業主にどのような義務があるのか、具体的に明記されていない点は大きな問題です」

その点は、どう考えるべきだろうか?

「これは、事業主が自らの責務として、最低限守らなければならない『ルール』を設ける必要がある、ということだと思います。

国は、法律にも定められている『教育活動』『広報活動』の充実などを通じて、過労死等の防止の具体的な施策を、事業主が自主的に打ち出すよう、促すべきでしょう」

●「労働者のいのち」を守れるのか?

一方で、国内には労働時間の規制を撤廃しようとする動きもある。

「過労死などの最も大きな原因は、長時間労働などの過重業務です。過労死のケースでは、サービス残業を強いられていることも少なくありません。

労働時間規制は、こうした過重労働の『歯止め』となっている制度です。

長時間の過重労働を放置したまま、その歯止めを無くそうとする国の態度は、『大きな矛盾』といえるでしょう」

それでは仮に、労働時間規制が撤廃されたとき、この「過労死防止法」で労働者の命は守れないのだろうか。

「労働時間規制を撤廃する制度がひとたび導入されれば、その具体的な弊害は、現役労働者にただちに及ぶでしょう。

いくら『抽象的に立派な理念』を持った『過労死防止法』があっても、労働時間規制の撤廃といった『具体的な動き』には全く無力です。

『立派な理念』を持った法律ができただけでは、労働者の環境が改善されるわけではありません。この理念を『具体的な形』に結びつけていく必要があります」

波多野弁護士は、このように強調していた。

(弁護士ドットコムニュース)

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