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死刑囚、色鉛筆が使えず「償いができない」 ルールの取り消し求めて国を提訴
2021年10月07日 14時44分

死刑囚の色鉛筆使用を認めない法務省訓令は、憲法の定める表現の自由を侵害するとして、訓令の取り消しと、色鉛筆および鉛筆削りを使えることの地位確認を求めて、確定死刑囚の男性(33歳)が国を相手に起こした裁判の第1回口頭弁論が10月7日、東京地裁でおこなわれる。

原告の代理人弁護士らが同日、裁判を前に会見を開いて「償いの色鉛筆を取り上げないで」と呼びかけた。

死刑囚の色鉛筆使用を認めない法務省訓令は、憲法の定める表現の自由を侵害するとして、訓令の取り消しと、色鉛筆および鉛筆削りを使えることの地位確認を求めて、確定死刑囚の男性(33歳)が国を相手に起こした裁判の第1回口頭弁論が10月7日、東京地裁でおこなわれる。

原告の代理人弁護士らが同日、裁判を前に会見を開いて「償いの色鉛筆を取り上げないで」と呼びかけた。

●原告は「宮崎家族3人殺害事件」の死刑囚

原告の奥本章寛死刑囚は、自宅で生後5ヶ月の子、妻、義母を殺害したいわゆる「宮崎家族3人殺害事件」で殺人などの罪に問われ、2014年に死刑確定した。現在は福岡拘置所に収容されている。

一審の宮崎地裁で死刑判決が言い渡されたころから、色鉛筆で絵を描くようになった。その後、描いた絵を絵ハガキにして、販売収益金を遺族(妻の弟)への被害弁償金にあてている。

原告代理人の黒原智宏弁護士によれば、描いた絵は100枚程度にのぼり、10年間の活動をまとめた冊子もつくられた。支払い済みの弁償金は200万円を超えるという。

「経済的支援を目的としたものですが、一方で、奥本さん自身も絵を描くことで罪と向き合うことになり、心の平穏を得るに結びつく有意義な活動でした」(黒原弁護士)

描く絵のモチーフも、花などから、次第に動物、人間の家族になった。それを助けたのが、奥本死刑囚が購入した色鉛筆セットだった。

「動物の家族」を描いた絵 「動物の家族」を描いた絵

「たくさんの色を使い、色の濃淡をはっきりつけて、思いを込めた絵を描くようになった」

ところが、収容者の物品使用を定めた法務省訓令の改正によって、色鉛筆を使えなくなってしまったという。

「これまでは、訓令の規則にもとづき、確定死刑囚は、色鉛筆を購入して自室に留めて使用できました」(同)

この訓令が昨年改正され(今年2月1日施行)、色鉛筆を使用できなくなっただけでなく、鉛筆削りも購入できなくなり、貸出をうける必要があるという。貸出には大きな手間がかかるそうだ。

なお、改正の背景には、別の死刑囚が「鉛筆削りの刃を分離して、自傷行為におよんだ」という出来事があると考えられるという。この点、国ははっきりと事情を説明しておらず、今回の裁判のなかで事情を明らかにしたい考えだ。

●「色鉛筆は償いの実現に必要不可欠」

9月29日に弁護士と面会した奥本死刑囚のコメントも代読された。

「自分にとって色鉛筆で絵を描くことは反省を深め、償いを実現するために、必要不可欠な行為でした。ですから、これまでと同じように、また色鉛筆を使って、絵が描きたいと思っています。そして、この訴訟によって、自分だけではなく、全国の死刑囚のみなさんも、再び色鉛筆を使って絵が描けるようになることを願っています」

色鉛筆が使えなくなった今では、鉛筆、5色のカラーシャープペンシルが使えるのだが、シャーペンでは濃淡を描けず、作画できないということから、鉛筆1本を使っているそうだ。

「福岡拘置所の隣に小学校があり、登下校の声をきくにつれ、生後5ヶ月で亡くなった子どもの成長を思いうかべるそうです」(黒原弁護士)

●刑務所の受刑者は色鉛筆を使えるのに、どうして?

黒原弁護士によれば、刑務所の受刑者は変わらずに色鉛筆を使用できているという。

「全国の確定死刑囚を収容する拘置所において、色鉛筆と鉛筆削りが使えない状況にあると聞いている。なぜ受刑者が使えて、確定死刑囚は使えないのか」(同)

国は答弁書で、訴えの却下を求めている。

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