13234.jpg
ネット情報の削除代行は「非弁行為」に該当…原告代理人が語る判決の意義と影響
2017年02月22日 10時26分

インターネット上に書き込まれた誹謗中傷などの削除を代行する業者に対して、依頼者の男性が支払った代金の返還を求めた訴訟の判決が2月20日、東京地裁であった。

原克也裁判長は、ウェブサイトの運営者に誹謗中傷などの削除を求めることは、弁護士法が弁護士以外が取り扱うことを禁じた「非弁行為」にあたるとして、契約が無効であると判断。業者に対して、代金約50万円を返還するよう命じた。

今回の判決は、削除行為を非弁行為と認めた初めての判断だといわれている。今後、どのような影響を与えるのだろうか。原告代理人をつとめた中澤佑一弁護士に聞いた。

インターネット上に書き込まれた誹謗中傷などの削除を代行する業者に対して、依頼者の男性が支払った代金の返還を求めた訴訟の判決が2月20日、東京地裁であった。

原克也裁判長は、ウェブサイトの運営者に誹謗中傷などの削除を求めることは、弁護士法が弁護士以外が取り扱うことを禁じた「非弁行為」にあたるとして、契約が無効であると判断。業者に対して、代金約50万円を返還するよう命じた。

今回の判決は、削除行為を非弁行為と認めた初めての判断だといわれている。今後、どのような影響を与えるのだろうか。原告代理人をつとめた中澤佑一弁護士に聞いた。

●個人情報を削除したいという「ニーズ」が企業・個人ともに高まった

――判決の意義はどういうものでしょうか?

現在、多くの業者によって、ウェブ上の記事の削除依頼行為や削除代行行為がおこなわれています。

こうした行為は、かねてより「弁護士法違反ではないか?」という指摘がなされていました。また、一部の悪質な事業者の行為に対する問題も指摘されていました。

しかし、これまで、明確な判断基準やこの点に関する裁判例が存在しておらず、放置されてきたのが現状です。今回の判決で、弁護士でなければ取り扱うことができない行為であるという明確な判断が示されたことは重要な意義を有すると思います。

――インターネット上には、削除代行業者の広告が多くみられます。

ネットの普及とともにネット上のネガティブな情報や、個人情報を削除したいというニーズが企業・個人ともに格段に高まりました。

このニーズの高まりとともに、ここ数年の間で「削除代行」「風評被害対策」「風評コンサルティング」と呼ばれるサービスが多数の事業者によって提供されるようになっていったと考えられます。

今回の判決が示したように、『表現の自由』への慎重な配慮も必要な業務ですので、弁護士以外によるこのようなサービスは違法なのですが、明確な判断がされないまま、ここまで広がってしまったのが実態です。

なお、最近は弁護士法違反との指摘を回避するためか、「削除」等の明確な表現を避けているケースが増え始めていました。

●代行業者に対する返金請求が増えてくる可能性も

――あらためて、判決はどんな内容でしょうか?

今回の裁判で、被告となった削除代行の業者は、簡易な削除フォームからの情報提供をおこなっているに過ぎず、法的な削除請求権の行使ではない、と主張していました。

しかし、判決では、この反論は退けたうえで、「ネット上の記事を削除する」という目的でおこなわれる連絡は、削除請求権の行使であり、ウェブサイトの運営者に削除義務を発生させる行為にあたるなどとして、弁護士法違反であることを認定しました。

この判決に照らせば、営利目的で他人から依頼を受けて、ネット上の記事を削除するという行為は、およそすべてが弁護士でなければできない業務にあたるということになります。

――今後、どのような影響をあたえるのでしょうか?

削除代行をおこなっている業者の広告には、「対策」や「コンサルティング」といったあいまいな表現で、実際にどのような行為をおこなっているかは”ノウハウ”として秘匿されていることも多くあります。今回の判決によって、”実際に記事が消える”サービスはすべて違法とされる可能性がきわめて高くなったと言えるでしょう。

また、今回の判決は、支払い済みの報酬全額の返金も認めています。今後は、過去に代行業者に報酬を支払ってしまった人から代行業者に対する返金請求が増えてくると思います。とくに、このようなサービスを利用している企業については、コンプライアンス上の問題もあり、対応を取ることが必要となるでしょう。

さらに、これまでこの種のサービスを提供していた業者の中から、弁護士と提携してサービスを提供しようと考えるところが増えてくると予想されます。今回の判決で被告となった代行業者も一部弁護士と提携して削除業務をおこなっていました。しかし、弁護士以外の者が、弁護士と提携してこの種の事業をおこなうことも、弁護士法違反です。

弁護士の名前で広告をしていても、実態は代行業者といった違法な提携行為に今まで以上の注意を払う必要があります。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る