「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏が、1月に死去した竹内英明元県議に関する虚偽の情報をSNSに投稿したなどとして、11月9日に名誉毀損の疑いで逮捕されたことが報じられました。
朝日新聞の報道(11月10日)などによると、2024年の12月に街頭演説で竹内元県議について「警察の取り調べを受けているのはたぶん間違いない」などと発言し、竹内氏の名誉を毀損した疑いがもたれています。また、竹内氏が亡くなった後も、「明日逮捕される予定だったそうです」などと虚偽の情報をSNSに投稿するなどして、竹内氏の名誉を毀損した疑いが持たれています。
亡くなった元県議の妻が立花氏を兵庫県警に刑事告訴し、6月に受理されていました。立花氏はすでに別の罪での確定有罪判決を受けて執行猶予期間中です。今回の事件で起訴され、有罪となった場合、実刑となる可能性はあるのでしょうか。
●執行猶予中に有罪判決を受けた場合、どうなるのか
執行猶予期間中に別の犯罪で有罪判決を受けた場合、執行猶予が取り消され、別の犯罪での有罪判決とあわせて実刑となるのが通常です(刑法第26条第1号)。
立花氏は、2023年に別の事件(NHK契約者の個人情報不正入手・ネット投稿など)で懲役2年6カ月、執行猶予4年の有罪判決が確定しています。
この執行猶予期間中に新たな罪(名誉毀損罪)で有罪となった場合、どのようになるかは、有罪判決が拘禁刑の場合と、罰金刑の場合で異なります。
1)拘禁刑の場合
先に書いたように、原則として以前の執行猶予の言い渡しは取り消され、今回の拘禁刑と合わせて実刑(刑務所に収容されること)となるのが通常です。
ただし、今回の拘禁刑が2年以下であり、情状に特に酌量すべきものがあるとき、つまり特別に考慮すべき事情があるときは、今回の判決に対して再度の執行猶予が付される可能性があります(刑法第25条第2項)。
再度の執行猶予がつけられるのは例外的な場合であり、そもそも認められにくいものです。
また、特別に考慮すべき事情としては、犯罪自体の重さや、被害者との示談の状況などが考えられます。
今回のケースでは、名誉毀損罪自体は法定刑がそこまで重い刑ではない(3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)のですが、執行猶予中の犯罪もインターネットにおける個人情報の投稿などを内容としており、類似性が認められることや、被害者遺族の感情も厳しいと考えられることから、再度の執行猶予はかなり認められにくいと思われます。
2)罰金刑の場合
執行猶予期間中に犯した罪で罰金の判決を受けた場合は、裁判所の判断により以前の執行猶予の言い渡しを取り消すことが「できる」とされています(刑法第26条の2第1号)。必ず取り消されるわけではありませんが、取り消されれば執行を猶予されていた刑が執行され、刑務所に収容されます。執行猶予を取り消すかどうかは裁判所次第ということになります。
罰金刑の可能性についてですが、前述のように前回の有罪判決が類似のインターネット関連犯罪であることや、遺族主張によれば被害者は誹謗中傷により死亡したとしていることを考えると、罰金刑の可能性よりも、拘禁刑となる可能性の方が高いように思われます。
●立花氏はどう争うのか?
1)死者への名誉毀損罪が成立するための要件
本件では、元県議が亡くなった後に、立花容疑者がSNSなどで虚偽の情報を投稿した行為が問題視されています。
刑法は、死者に対する名誉毀損行為についても規定を設けていますが、その成立要件は、生存している人に対する名誉毀損よりも厳しく、「死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない」と定めています(刑法第230条第2項)。
これは、死者に関する事実は歴史的評価の対象となるため、真実に基づく批判を許容する趣旨とされています。したがって、死者に対する名誉毀損罪が成立するためには、「虚偽の事実を摘示すること」が必要です。
今回のケースでは、立花氏の「明日逮捕される予定だったそうです」といった情報をSNSなどに投稿した行為について、これらが「虚偽の事実である」かどうかが問題となります。
この点については、毎日新聞の報道(11月10日)によれば、「県警幹部の一人は9日、県警が竹内さんに事情を聴いたことはなかったと説明。」とあります。
仮にこれが事実だとして、捜査による裏付けがされていたとしても、問題となるのは次の「故意」が認められるかです。
2)「故意」の立証は難しい可能性がある
死者の名誉毀損の場合、「故意」の内容が大きな問題となります。
死者の名誉毀損の場合、故意の内容として「摘示した事実が虚偽であること」を認識していたことが必要となると考えられます。(「講義刑法学・総論」(井田良、有斐閣)、「刑法〔第4版〕」(小林充、立花書房、2015年5月)など参照)
つまり、先に書いたように立花氏が「明日逮捕される予定だったそうです」といった情報をSNSなどに投稿した行為について、立花氏自身がこれらを「虚偽の事実である」ことを認識していたかが問題となります。
立花氏は、「名誉毀損したことは争わないが、十分、違法性が阻却されるだけの根拠をもって発言している」と述べており、また自身は虚偽の事実であるとは認識していなかったという趣旨の説明もしています。
そのため、投稿された事実が真実でなかったとしても、立花氏自身が「虚偽の事実である」と確定的に認識していたかどうかが争点になりえます。
この故意の立証は検察官側が行う必要があります。
3)略式起訴で罰金刑となるためには
立花氏としては、罰金刑で済むのであれば、執行猶予の取り消しがされない可能性がありますから、犯罪事実を認めて略式起訴(正式な刑事裁判を経ずに罰金刑で終了する手続き)を目指すことも考えられます。
この場合、犯罪事実を認めることが前提となりますから、先にあげた故意の部分で争わないことが前提となります。
故意について争い、刑事裁判で争うか、争わずに略式起訴を目指すかは立花氏次第ということになります。
なお、犯罪事実を認めたからといって必ず略式起訴になるわけではない点には注意が必要です。
監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)