住宅ローンの仮審査を申し込んだら、夫がすでに義実家の住宅ローンを組んでいたことが判明したーー。そんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
夫は「義父が高齢でローンが組めないから名前だけ貸した」と説明しているものの、住宅ローンの名義人は夫となっており、実際に夫婦の新居が購入できなくなっているため、許すわけにはいかないと離婚を考えているそうです。
夫婦の共有財産に関わる高額なローンを配偶者に無断で組んだ行為は、法的に離婚が認められる「離婚原因」となるのでしょうか。
●無断のローン設定は「婚姻を継続しがたい事由」にあたるか
今回の事例では、夫の行為が民法第770条1項5号に定める「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」にあたるかどうかが主な論点となります。この事由は、夫婦間の信頼関係が破綻し、もはや夫婦として共同生活を続けていくことが困難な状況を指します。
たしかに、夫婦の生活設計の根幹に関わる住宅ローンや連帯保証について、配偶者に無断で進めたことは、夫婦間の信頼関係を大きく損なう行為であり、新規の夫婦用住宅ローンが組みづらくなるという経済的な不利益も発生しています。
しかし、「婚姻を継続しがたい事由」は、夫婦の一方が望まないのに、公権力である裁判所が強制的に婚姻関係を終了させるかどうかという判断に関わるものですから、その認定は厳格です。
この点、夫が妻に無断で妻の親戚や知人から多額の借金をしたことが問題となり、裁判所が離婚を認めているケースはあります(東京地判平成16年9月9日)。
しかし、このケースでは、原告である妻が事情を知らされていなかったことに加えて、妻の関係者からの借金であり、この事情が週刊誌などでも報道されているといった事情もあるため、「無断で借金をした」から直ちに離婚原因になる、という一般化はできません。
夫の多額の借金について離婚原因にあたらないという判断をしている裁判例もあります(仙台地判昭和60年12月19日など)。
● 義実家のローンは義父が支払っているようだが…
まず、この事例では、義実家のローンの実際の支払いは義父が行っており、相談者夫婦の家計に直接的な経済的負担はかかっていません。
次に、夫が妻に内緒で重大な経済行為を進めたことは、夫婦間の不信感を生むことは否定できません。しかし、現実として家計への影響がないため、「不信感」や「新築の家が購入できない」という不利益を考慮に入れたとしても、婚姻関係を決定的に破壊したとまではいえないと判断される可能性が高いと考えられます。
もちろん、婚姻を継続しがたい事由があるかどうかの判断は総合判断であり、その他詳しい事情によっては離婚原因があると判断される可能性もありますから、弁護士に相談することをお勧めします。
●話し合いで合意できれば、いつでも離婚は可能
裁判離婚の要件を満たさないとしても、夫婦双方が合意すればいつでも離婚できます(協議離婚)。話し合いがうまく行かないのであれば、離婚調停を申し立てることもできます。
また、相談者が夫に対する不信感を解消できるとは到底思えない、離婚の意思が固い、ということであれば、別居して期間をおくなどすることで、離婚原因が認められやすくなる可能性があります。
現時点で相談者がやれそうなこととしては、たとえ現在は義父が支払っているとしても、将来的に責任が現実化する可能性を考慮し、夫が債務者になっているすべてのローン等の内容(債務残高、債権者、契約書など)の情報を全て開示させ、その証拠を保全しておいたほうが良いでしょう。
なお、今回の行為が将来的に夫婦の共有財産(財産分与)にどのような影響を及ぼしうるか、また離婚の際の慰謝料請求が可能かなどについて、具体的な状況を弁護士に相談し、今後の進め方についてアドバイスを受けることも検討すべきだと思います。