13532.jpg
差し入れ「書籍」閲覧制限の違法判決…「死刑囚」の人権の制限はどうあるべきか?
2016年09月04日 10時41分

差し入れの書籍や雑誌について、拘置所が一部閲覧できないようにしたのは違法だとして、死刑囚の男性(40)が国を相手取って慰謝料100万円を求めた訴訟で、名古屋地裁は8月下旬、国に6万5千円の支払いを命じる判決を言い渡した。

共同通信の報道などによると、差し入れの書籍や雑誌に死刑執行の具体的描写があったため、名古屋拘置所は2010年から2013年にかけて、原告の男性が読めば精神不安定になって自殺や逃走につながるおそれがあるとして、一部を閲覧できないように抹消処分していたという。

名古屋地裁の倉田慎也裁判長は判決で「抹消部分の閲覧で、原告が自殺や逃走する相当程度の確実性があったといえない。裁量権を逸脱している」と判断した。

この死刑囚の男性はこれまでも、弁護士などとの手紙のやりとりを禁止されたのは違法だとして国を相手取った訴訟を起こし、今年2月に勝訴している。死刑囚の人権はどう考えられているのだろうか。村上英樹弁護士に聞いた。

差し入れの書籍や雑誌について、拘置所が一部閲覧できないようにしたのは違法だとして、死刑囚の男性(40)が国を相手取って慰謝料100万円を求めた訴訟で、名古屋地裁は8月下旬、国に6万5千円の支払いを命じる判決を言い渡した。

共同通信の報道などによると、差し入れの書籍や雑誌に死刑執行の具体的描写があったため、名古屋拘置所は2010年から2013年にかけて、原告の男性が読めば精神不安定になって自殺や逃走につながるおそれがあるとして、一部を閲覧できないように抹消処分していたという。

名古屋地裁の倉田慎也裁判長は判決で「抹消部分の閲覧で、原告が自殺や逃走する相当程度の確実性があったといえない。裁量権を逸脱している」と判断した。

この死刑囚の男性はこれまでも、弁護士などとの手紙のやりとりを禁止されたのは違法だとして国を相手取った訴訟を起こし、今年2月に勝訴している。死刑囚の人権はどう考えられているのだろうか。村上英樹弁護士に聞いた。

●「必要最小限度の制限でなければならない」

「死刑囚であっても、憲法が保障する人権があります。しかし、受刑者でない一般人とまったく同じかといえば、そうではありません。死刑囚については、国が刑事施設に収容する必要がありますから、その関係で必要な人権の制限をすることが許されています。

ただし、その制限は、国がその人を収容している目的を達成するために必要最小限度のものでなければなりません」

村上弁護士はこのように述べる。どのような制限が問題になるのだろうか。

「とくに、手紙の差し入れや新聞・図書の閲読を制限するなど、個人の精神的自由を規制するものについては、『必要最小限度を超えていないか』ということが厳しく問われることになります。

この点については、『よど号ハイジャック記事抹消事件』の判決(1983年・最高裁)が参考になります。

最高裁はこの判決のなかで、監獄長がおこなった新聞記事の抹消処分について、監獄内における紀律・秩序が放置できない程度に害される『相当の具体的蓋然性(確実性)』があると認められる場合に限って、禁止または制限できるという基準を示しています」

●「具体的に特別な状況でもないかぎり、最小限度を越える」

今回の名古屋地裁の判決はどうだろうか。

「この判決も、死刑囚の人権に対する『規制のしすぎ』、つまり必要最小限度の規制を超えているとして、違法であるという結論に至ったわけです。

私は、死刑囚をふくむ被収容者の人権について、裁判所のとる基本的な考え方は正しいと思っています。死刑囚の男性が犯した罪が重大であったとしても、拘置所に留置されることや刑の執行を受けることなどは別として、基本的人権はできるかぎり保障されるべきです」

一般論として、死刑に関する描写を見た死刑囚が、精神不安定になることは考えられないだろうか。

「そういう可能性はあるかもしれませんが、具体的にその人の精神状態が非常に悪く、そのような描写を見せることが自殺などの事態を直接引き起こす可能性が相当大きいという特別な状況でもないかぎり、一般論的なおそれだけで制限することは最小限度を超えるといえるでしょう。憲法違反になる可能性が高いと思います」

村上弁護士はこのように話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る