13555.jpg
「殺処分ゼロ」追求の裏側で、闇に消える犬や猫たち…ペット流通、法律のあり方議論
2017年01月17日 10時07分

人と動物が共生する社会を実現するために、ペットの流通はどうあるべきかーー。東京弁護士会は1月14日、ペット流通の問題点について話し合うシンポジウムを開催した。動物愛護の問題に取り組む政治家やジャーナリスト、ペット業界関係者らが登壇し、動物愛護法の問題点や、ペットの流通のあり方について議論した。

人と動物が共生する社会を実現するために、ペットの流通はどうあるべきかーー。東京弁護士会は1月14日、ペット流通の問題点について話し合うシンポジウムを開催した。動物愛護の問題に取り組む政治家やジャーナリスト、ペット業界関係者らが登壇し、動物愛護法の問題点や、ペットの流通のあり方について議論した。

●「殺処分ゼロ」追い求めるだけでは問題は解決しない

ペットを取り巻く問題として、たびたびクローズアップされてきた殺処分の問題だが、以前と比べその数は大きく減少している。環境省の調査結果では、1974年に約120万匹だった犬猫の殺処分の数は、2015年には、約8万3000匹まで減少している。

これに加えて、2013年に改正動物愛護法が施行され、自治体は、ペットショップなどの「犬猫等販売業者」からの引き取りを拒むことができるようになった。安易に自治体に持ち込むことを防ぎ、殺処分の数を減らす狙いがあった。その結果、「殺処分ゼロ」を達成する自治体も出てきた。

ところが、行政がペット業者からの引き取りを拒むようになった結果、売れ残ったペットを有料で引き取り劣悪な環境で飼育する「引き取り屋」と呼ばれるビジネスが活発化し、問題視されるようになった。

朝日新聞・文化くらし報道部の太田匡彦氏は、こうした現状を指摘した上で、「行政で殺処分をゼロにするということを追求しても、問題は解決しない」と指摘した。

太田氏は、「改正動物愛護法が施行された後も、(ペット業界の)ビジネスモデル自体はほとんどかわらないまま存続している。一部の悪質業者に販売され、闇に消えていく犬や猫、無責任な消費者に買われてしまう犬や猫など、たくさんの問題が起きている。適切な市場管理が行われていないために、現状まったく救えていない」と動物愛護法が十分に機能していない現状を説明。「動物取扱業者の一層の適正化や、地方自治体の動物取扱業者への監視の強化が必要だ」と訴えた。

●「数値規制がない現状では、動物愛護法はなんの解決にもなっていない」

なぜ、動物愛護法が機能していないのか。政治家を志す以前からボランティアなどで動物愛護の問題に取り組んできた塩村あやか東京都議会議員は、現状の動物愛護法には、規制のための具体的な「数値」が定められていないことを指摘した。

欧米などの一部の国では、犬や猫を繁殖させる回数や、飼育するスペースの大きさ、親元から離して譲渡することができる時期などが細かく規定されている。

塩村議員は、こうした数値規制を日本でも設ける必要性を強調した。「数値がないと行政は動かない。数値規制がない現状では、動物愛護法はなんの解決にもなっていない。早急に省令などで盛り込む必要がある」と訴えた。

「数値規制」のひとつとして「8週齢規制」の問題が議論にのぼった。これは、人間や他の犬猫などとの生活に無理なく馴染む社会性を身につけるために、生後8週間(56日〜62日)は親元で過ごさせるようにするという考え方だ。

改正動物愛護法でも「8週齢規制」は設けられたが、暫定措置として49日で販売が可能となっているため、事実上骨抜きとなっている。札幌市が2016年に条例で独自にペットショップやブリーダーの「努力義務」として設けているのみだ。

塩村議員は、売れ残って引き取り屋などのもとで亡くなる命を減らすために、「8週齢規制は実現しなくてはならない」と強調した。「供給の数を絞り、需要に見合う数だけを供給することが必要だ。ペットショップに並ぶ動物を減らすために、数値規制は有効だ」と訴えた。

●「命あるものの在庫」どう考えるべきか

一方で、業界団体である全国ペット協会・名誉会長の米山由男氏からは、数値規制について慎重に考えるべきだという意見がでた。

米山氏は、劣悪な環境で飼育するブリーダーやペットショップについて「論外」だと指摘。「そうした業者は厳しく取り締まっていただいて、どんどん退出してもらわなければ困る。一蓮托生で(ペット業界)みんなが悪いと思われるのは迷惑だ」と語った。

その一方で、海外で取り入れられている数値の基準を、日本でそのまま取り入れることについて、「軽々に決めることはできない」と慎重姿勢を示した。

今後のペットの販売のあり方として、元衆議院議員で料理研究家の藤野真紀子氏は、「大量に生産をして、大量に消費するというこれまでのあり方では、どうしても在庫がでる。命あるものの在庫をどう考えるのか」「数を増やそうと思えば、劣悪な環境でブリーディングする業者などがどうしても出てきてしまう。品質の高いブリーダーやペットショップなど、数に走らない、質を高めていくという方向を追求していく必要があると思う」と述べていた。

(2019年5月2日:一部文言を修正しました)

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る