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「あなたには会いたくなかった」遺族の忘れられない言葉 過労死取材はいつなくなるか
2018年06月20日 20時44分

「記者さん、おいくつ?」一一。その女性から声をかけられたのは、2017年9月にあった日本労働弁護団による「働き方改革一括法案」についての勉強会が終わってからだった。

「30歳です」。記者が答えると、女性はこう続けた。「娘は31歳で亡くなったのよ」。すぐには言葉が出てこなかった。過労死に限らず、遺族の取材は何度もしたことがある。その都度、どんな言葉で哀悼の意を伝えたら良いか苦慮し、何度も思い返す。

娘さんについては、近日中に発表があるという。名刺には「佐戸恵美子」とあった。NHK記者・佐戸未和さん(当時31)の過労死が発表されたのは、それから約3週間後のことだった。

半年以上がたった今、母の恵美子さん(68)は過労死の遺族会メンバーとして、「せめて、再発防止をライフワークにと思って」と、法律を勉強し、高度プロフェッショナル制度(高プロ)に反対の声をあげている。(編集部・園田昌也)

「記者さん、おいくつ?」一一。その女性から声をかけられたのは、2017年9月にあった日本労働弁護団による「働き方改革一括法案」についての勉強会が終わってからだった。

「30歳です」。記者が答えると、女性はこう続けた。「娘は31歳で亡くなったのよ」。すぐには言葉が出てこなかった。過労死に限らず、遺族の取材は何度もしたことがある。その都度、どんな言葉で哀悼の意を伝えたら良いか苦慮し、何度も思い返す。

娘さんについては、近日中に発表があるという。名刺には「佐戸恵美子」とあった。NHK記者・佐戸未和さん(当時31)の過労死が発表されたのは、それから約3週間後のことだった。

半年以上がたった今、母の恵美子さん(68)は過労死の遺族会メンバーとして、「せめて、再発防止をライフワークにと思って」と、法律を勉強し、高度プロフェッショナル制度(高プロ)に反対の声をあげている。(編集部・園田昌也)

●遺族は知っている 責任感のある「プロ」ほど過労死リスクが高い

高プロでなぜ過労死の増加が懸念されるのか。労働時間規制がなくなること、労基署の指導が困難であること、労働者の裁量が保障されていないこと(省令に盛り込む方針)、健康診断で済む「健康確保措置」の不十分さーーなどなど、理由は方々で指摘されている。

ここでは、「高度プロフェッショナル」という名称そのものが、過労死の構造の1つを言い表している点にも触れておきたい。組織や成果に対して責任感が強く、代わりがいない「プロ」ほど、その真面目さゆえに心身を削られ、過労死のリスクが高まる。

たとえば、佐戸未和さんの場合は、労基署が認定した亡くなる直前の時間外労働は月159時間。遺族側の集計では、直前1カ月が209時間、その前の月は188時間だった。夏場に2つの大型選挙が続き、高熱の中、点滴を打ちながら仕事をした日もあった。

成果を求める会社、同僚間での競争、人手不足、休めない職場環境、本人のこだわりーー。長時間労働になりやすい複数の要素がある中で、何が働きすぎの歯止めになるのか。過労死遺族は現状、それが「時間」であることを身をもって知っている。しかし、現在の高プロ案では働きすぎ、働かせすぎを明確に止める手立てはない。

●「残業代払いたくない」正面から議論を

IT化やグローバル化など産業構造が変わる中で、時間給をベースにすることの是非を議論する必要性は否定しない。経済成長のためには、残業代や労務管理コストの削減が必要だという意見に賛成する人もいるだろう。

しかし、高プロの国会審議で、そうしたテーマは正面から扱われていない。アプローチが変われば、違う解決方法が出てくるかもしれないのに。むしろ、財界から出てきたアイデアなのに、労働者のニーズが都合よく作り上げられ、法案の条文では明確に保障されていない「柔軟な働き方」が強調されている。

しかも、対象業務がそう遠くないうちに拡大する可能性がある。高プロを提唱した2014年の「産業競争力会議分科会」のメンバーは、経団連や経済同友会のトップ、パソナ会長の竹中平蔵氏ら。その竹中氏は5月30日放送のNHK「クローズアップ現代+」で、高プロの対象をもっと広げるべきだと話している。

記者はこの5月で未和さんと同じ31歳になった。先日、街頭で高プロ反対の声をあげる恵美子さんに会ったとき、お祝いの言葉とともに、「あなたには会いたくなかった。この場にいたくはなかった」と言われた。

「遺族」になりたい人などいない。記者もこれ以上、新たな過労死遺族に会わないで済む世の中であればと思う。しかし、現在の議論を見ていると、まだまだ時間がかかりそうだ。与党議員が「過労死を増やしたい議員はいない」ということをツイートしていたが、「抜け道」は残ったまま。労働問題で政治や企業を信頼しろと言われても、労働者はもう何度も痛い目に遭っている。

(弁護士ドットコムニュース)

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