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「食べる以外、楽しみがない」イタリア在住歴31年の日本人が語る「静かな日常」
2020年04月02日 10時09分

新型コロナウイルスが、世界中に広がり続けています。米国についで感染者数が多いイタリアでは、新型コロナによる死者が1万2000人、感染者数は10万人に達しました。一国での死者数が1万人を超えるのは世界で初めてのこと(3月28日)。

そんなイタリアで、市民の暮らしに何が起きているのか。イタリア・ローマに在住して31年となるタケイ・ルチアさんにローマからの現地ルポを寄稿してもらいました。

新型コロナウイルスが、世界中に広がり続けています。米国についで感染者数が多いイタリアでは、新型コロナによる死者が1万2000人、感染者数は10万人に達しました。一国での死者数が1万人を超えるのは世界で初めてのこと(3月28日)。

そんなイタリアで、市民の暮らしに何が起きているのか。イタリア・ローマに在住して31年となるタケイ・ルチアさんにローマからの現地ルポを寄稿してもらいました。

●退屈しのぎのパートナーは?

COVID-19(新型コロナウイルス)感染症拡大につき「緊急事態宣言」が3月11日に発令され、自宅待機が始まってすでに3週間が過ぎました。

私がイタリアに来たのは、1989年のこと。こんなに静かで緊張感のある毎日は初めてのことです。自由に外出もできませんから、この数週間は必需品を購入するための外出を時折する程度するだけで、一緒に暮らす犬2匹と夫だけが退屈しのぎのパートナーです。

「周囲の人とは1メートル離れて!」。お店の入り口に手書きではられていました。(写真:タケイ・ルチア) 「周囲の人とは1メートル離れて!」。お店の入り口に手書きではられていました。(写真:タケイ・ルチア)

日本でも連日イタリアについて報道されていますが、連日拡大が広がっているのはイタリア北部のロンバルディア州。日本人にも人気の街、ミラノはこのロンバルディア州にあります。私が住むのは南部ローマで、北部の緊迫感とは少し状況は違うかもしれません。

●むやみに外出すると「最高36万円の罰金」 

緊急事態の発令後、観光客の姿も消え、街はすっかり静かになりました。

小さな小売店の入り口に並ぶ人たち。十分な距離をとっています。(写真:タケイ・ルチア) 小さな小売店の入り口に並ぶ人たち。十分な距離をとっています。(写真:タケイ・ルチア)

3月11日から4月3日まで(その後については未定ですが、おそらく復活祭後の4月18日まで延長されることを覚悟しています)、飲食店や劇場、美術館、美容院等の閉鎖が決まりました。機能しているのは、スーバーマーケットと病院、薬局、銀行、郵便局、公共交通のみ。不思議なことに道路工事と、公共工事、ゴミの収集は作業しています。ゴミの収集はないと困るのですが…。

といっても、むやみに外出すると警察の検問にあい、最高で3000ユーロ(36万円)の罰金を科されるのです。外出の時はかならず、自己申告書を携行しなければならず、身分証と一緒に持参していなければ、罰金の対象になります。

この申告書には住所氏名、年齢、行き先と外出目的、ウイルス感染者との接触の有無などを書くのですが、緊急事態宣言が出てから内容は、すでに四回も変更されています。自己申告書はその都度、ダウンロードして、自宅で印刷して使います。

●「食べること以外楽しみがない」

唯一の外出ですが、せっかく買い物にいってもスーパーに着いたら長い行列になります。

長い理由は簡単です、各自1メートル以上並ぶ間隔をあける必要があるため。店内は数人しか入れませんし、レジに2人以上並ぶこともできません。1人が出たら、1人が入るというルールなのです。お店や違反した人も罰金の対象になるので、間隔をあけるルールはよく守られています。

店員さんも、マスク、ゴム手袋着用で1メートル離れて対応してくれるという徹底ぶりです。ただ、スーパーには新鮮なものであふれており、毎日新しい商品は到着しています。トイレットペーパーは普通に売っています。

ただ不思議とこんな時に限って、洗濯機が壊れたりトイレの水が止まらなくなったりします。修理人は呼べますが、新品の家電は店が閉まっているので買えません。4月3日に政府が今後の見解を出すまで、まだまだ耐えなければなりません。

食料用品の心配はないですが、在宅待機も長期になりますと健康の不安、経済的不安、見えない敵への不安が日に日に倍増していきます。さらに室内にいるので食べてること以外楽しみがないので太りますし、毎食の自炊も面倒くさくなりますね。

●裁判所もお休み、弁護士は在宅で仕事

そんな日々の中に、ちょっとした朗報がありました。3月からコロナ禍のために失業し、経済的な打撃を受けている私のようなフリーランサー(Libero Professionista)に、政府はINPS(全国社会保障機関)から「BONUS PARTITA IVA」の支給を決定したのです。

国からのフリーランサーのための現金給付金として1カ月600ユーロ(約7万2000円)を支給してくれることになったのです。日本よりは恵まれているとはいえ、イギリスやフランスより金額が少ないのは残念です。4月3日以降、ほかの職種や、児童手当なども発表されます。

ちなみに私の夫はイタリア人で、弁護士をしています。コロナの感染拡大を受け、裁判所も3月7日から4月15日まで閉鎖されているため、夫の手掛けていた3月6日にあったはずの調停案件も6月8日に延期されました。夫も在宅での仕事となっています。

●有名人たちがテレビCMで「家にいよう」と呼びかける

ちなみにイタリアは、日本とは全く違う保険医療体制で、基本無料診断です。そのため、PCR検査も無料で受けることができ、検査体制には問題がないのです。しかし、その後の対応が整わぬ間に大感染が広がっていきました。

大感染を抑止するには、国民の協力と理解が大切ということで、緊急事態に対して国を挙げてコロナウイルスに立ち向かおうという大々的にTVコマーシャルが流されています。スポンサーは色々ですが、押しなべて内容は同じです。

在宅待機(仕事や買い物、緊急事しか外出不可)、頻繁な手洗い、他人に近づかない(最低でも一メートル距離をとる)、人混みを避ける、目や鼻や口をむやみに触れない、握手、抱擁の禁止、ティッシュは、一回使用したらすぐ捨てる、自身で通常のインフルエンザだと感じたら家に居ること。救急病院や病院に行かず、家庭医に電話で指示をもらうーーー。

こんな内容が繰り返し流され、有名人たちがCMに登場して若者たちに「こんな時こそ私は家に居るよ」「ウイルスに負けないように私は家にこもります」「若君たちも真剣に考えて家に居ましょう」などと呼びかけています。

お気づきでしょうか。どこにも「マスクをしましょう」という項目がありません。イタリアでも全くマスクは手に入りません。薬局では売り切れで、新たな入荷の見込みもありません。しかし医療現場では使われているようなので安心です。

●いまできることは「家にいること」だけ

今国民ができることは、我慢して、各自が家にいることです。ほとんどの人々が守っています。警察や軍隊が各町を封鎖して感染が広がらないように見守っています。しかし、そこまでしてもまだまだ感染は止まりません。

まもなく、今後の暮らし方がイタリア政府から発表されます。こんなに歴史的な瞬間に自分が生きているのが不思議なくらいです。

早くワクチンの開発が進むことを祈るとともに、あと何日平常心が保たれるか。メンタル勝負の期間です。

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