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「地球ごと滅んでほしい」逮捕で一変した元大手メディア記者、"ワケあり人材"再生とデジタルタトゥー対策に奮闘
2025年07月19日 09時11分
#実名報道 #デジタルタトゥー #前科 #懲戒解雇

「報道する側だった自分が、まさか実名で報道されるとは思ってもいませんでした」

マスコミの記者として、数えきれないほど「他人の逮捕」を報じてきた。しかし、自分が被疑者として報道される立場になった瞬間、その"重み"に気づいた──。

元大手メディア記者の中村元(げん)さん(38)は今、デジタルタトゥーを背負った人たちの社会復帰を支える側に回っている。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

「報道する側だった自分が、まさか実名で報道されるとは思ってもいませんでした」

マスコミの記者として、数えきれないほど「他人の逮捕」を報じてきた。しかし、自分が被疑者として報道される立場になった瞬間、その"重み"に気づいた──。

元大手メディア記者の中村元(げん)さん(38)は今、デジタルタトゥーを背負った人たちの社会復帰を支える側に回っている。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

●手錠をかけられ飛行機で警察署へ「このまま墜落してほしい」

中村さんは30代前半のとき、自宅にやってきた捜査員に逮捕された。酒に酔った末の犯行で、弁解の余地はなかった。

「手錠をかけられたまま飛行機で移送されたとき、『このまま墜落しないかな』『地球ごと滅んでほしい』とさえ思っていました」

取材する側として傍聴席から見ていた法廷に、自分が被告人として立ち、執行猶予付きの有罪判決を受けた。

記者として脂が乗ってきた時期だったが、職を失い、引っ越し先が見つからず、妻子と別れて1人で実家に戻った。

解雇された翌月から就職活動を始めたが、現実は厳しかった。

画像タイトル 写真はイメージ(ペイレスイメージズ1(モデル) / PIXTA)

●「懲戒解雇」と記入すると書類で落とされる

「エントリーシートに『懲戒解雇』と書いたら、すべての企業で書類選考すら通りませんでした。ある転職サイトでは、勝手に登録を解除されたこともあります」

ネットで検索しても「前科者の就活」に参考となる情報は見当たらなかった。

試行錯誤の末、エントリーシートには事件のことを書かずに応募するようにしたところ、面接に進めるようになった。ただ、その一方で「後からバレればリスクになる」という危機感もあり、面接では自分の過去を隠さず伝えるようにしたという。

最終的に約40社に応募してウェブマーケティングの会社から内定をもらった。

画像タイトル 「自分の強みを生かした社会復帰を目指してほしい」と話す中村元さん(2025年6月10日、東京都港区で、弁護士ドットコムニュース撮影)

●「同じ境遇の人を支えたい」2018年にブログ開設

令和6年版の犯罪白書によると、2023年に検挙された刑法犯は約18万人。

自分と同じように悩んでいる人は多いかもしれない──。

そう考えた中村さんは2018年末、「ぼくだからできること。」というブログを開設した。自身の失敗談や就職活動で役立った経験を発信したところ、アクセスが集まり始めた。

「それまでネットにあった情報は、弁護士など専門家目線のものばかりでした。体験者としての情報が必要だと感じて始めたら、思った以上に反響がありました」

当初は副業として取り組んでいたが、「就職に困ってます」といった相談が届くようになり、徐々に実際のサポートへと発展していった。

「炎上するかもしれないと不安もありましたが、予想に反して『励まされました』『人生終わったと思ったけど頑張ろうと思えました』といった声が多かったです」

2023年に独立して、前科者や経歴に"ワケ"がある人を支援するサービス「YOTSUBA(よつば)」を立ち上げた。

画像タイトル 中村さんが提供しているサービス「YOTSUBA」では、事件を起こして解雇された後の就職支援などを行っている(YOTSUBAのHPより)

●利用者の元教員「面接で過去を語れなかった」

これまでに延べ約300人がYOTSUBAを利用した。

関東在住の元教員の男性は、駅の構内で盗撮して懲戒解雇された。当時、妻の妊娠が判明した直後だった。

「将来のことを考えると、とても不安になりました。とにかく次の仕事に就きたいと、焦りました」

だが、名前を検索すると、事件の情報がすぐに出てきた。書類審査を含めて100を超える会社に応募したが、ことごとく落ちた。

ネットで情報を探すうちに中村さんのサイトを見つけた。

「最初は、面接でどうして前職を辞めることになったのか、自分の口で説明することに抵抗がありました。

でも、中村さんから『自分から伝えないと経歴詐称になる』『事実を伝えたうえで、それでも前に進む覚悟を示すことが大事』と助言されて、正直に伝えるようにしました」

画像タイトル 写真はイメージ(Ystudio / PIXTA)

●「マイナスの過去に向き合ったことで強みに目が向いた」

中村さんは支援する際、まず「自身が犯した罪と向き合う必要がある」と伝える。

「事件を起こした以上、社会的な責任を負うのは当然です。まずは謝罪の気持ちを持ち、それを理解しないと本当の意味での社会復帰はありえません。

ただ、それまでに積み重ねてきた努力を無駄にしてはいけない。力を必要とする会社はありますし、自分の強みを生かした社会復帰を目指してほしいと思っています」(中村さん)

元教員の男性は、就活で事件のことを伝えた途端、「ごめんなさい」「そんなことをした人は無理」と面接を打ち切られることはあったが、「熱意が伝わってきます」と言われることも出てきた。そして約2カ月後、無事に正社員として採用してくれる会社と出会えた。

「中村さんのサポートがなければ、自分のマイナスの過去に向き合うことはできなかったと思います。向き合ったことで、教員として培ってきた経験や、自分の強みに改めて気づくことができました。

中村さん自身が私と同じ経験をしているからこそ、言葉に重みがあり、強い説得力がありました。さらに第三者に背中を押してもらえたことで、大きな自信にもつながりました」(元教員の男性)

画像タイトル 「YOTSUBA」ではデジタルタトゥーへの対策にも取り組んでいるという(YOTSUBAのHPより)

●デジタルタトゥー対策への挑戦

YOTSUBAでは「デジタルタトゥー対策」にも取り組む。

中村さん自身、転職先で同僚がネット検索で逮捕歴を知り、外部に漏らされた経験がある。

公務員や大企業の社員などは立場上、逮捕時に実名報道されることが多い。その後、不起訴となるケースも少なくないが、名誉が回復するまで報じられることはほぼなく、ネット上に出回る情報は逮捕時のままだ。

一度ネットに出た記事は、不特定多数のネットユーザーにコピペされて拡散され、完全に消すことは難しい「デジタルタトゥー」として残り続ける。

画像タイトル 中村さんは「デジタルタトゥーの影響で社会復帰できず、自暴自棄になって再犯を繰り返す“無敵な人”が増えては社会にとってもマイナスです」と話す(2025年6月10日、東京都港区で、弁護士ドットコムニュース撮影)

●「更生して社会に役立つ存在になってほしい」

かつて記者として逮捕ニュースを書いてきた中村さんは、メディアの考え方を理解しつつも、前科者の社会復帰を阻む現状に問題意識を持つ。

「国民には知る権利があり、犯罪抑止の観点からも被疑者の実名報道は必要です。ただ、刑事責任を果たした後も永遠にネット上に残り続けることが良いことだとは思いません。

本人が社会的制裁を受けるのは当然だとしても、デジタルタトゥーの影響で社会復帰できず、自暴自棄になって再犯を繰り返す“無敵な人”が増えては社会にとってもマイナスです」

現在は、新聞やテレビの逮捕記事を転載しているサイトへの対処法を助言したり、検索エンジンで逮捕記事が出てこないようにしたりする対策にも取り組んでいるという。

「『死のうと思っていたけど、やめました』と相談者に言われることがあります。罪と向き合い更生を誓った人が人生を諦めるのではなく、復職先で能力を発揮して活躍することがひいては社会全体に役立つことだと信じています」

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